理研ら,硬X線FELの2本同時高出力運転に成功

理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター(JASRI)は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAで稼働している2本の硬X線FELビームライン(BL2,BL3)について,2本同時に,40ギガワットを超える高いレーザー出力で運転することに成功した(ニュースリリース)。

SACLAは利用者に提供可能なビームタイムを増やすため,2015年にBL3に続いてBL2の運用を開始し,2016年にはパルス毎に電子ビームを振り分けることで,BL2とBL3の同時運転を実現したが,その際に電子ビームの輸送路(ドッグレッグ)で発生する強い放射光によって電子ビームの品質が損なわれるという問題があった。

この劣化はピーク電流を小さくすると抑制できるが,電流が小さくなることで,レーザー出力も低下するため,同時運転時のレーザー出力は数ギガワットにとどまっていた。また,電流が小さくなることでパルス幅も長くなってしまう。これらのことから,実施できる実験が限られていた。

この問題を解決するため,理研とJASRIはドッグレッグのビーム光学系のデザインを抜本的に見直した。この過程で,ビーム光学系を最適な条件にするためには,電子ビームを両ビームラインに振り分けるためのキッカー電磁石を,これまでの約6倍の電圧で動作させる必要があることが分かった。

このために必要となる高出力パルス電源をニチコンと共同で開発し,次世代のパワー半導体デバイスである「SiC MOSFET」を利用することで,電力の損失が少なく,設定電流値からの偏差が0.001%精度という,高効率かつ高安定性を持つ電源を実現した。

2016年2月には,新たな光学系によるBL2への電子ビームの輸送試験を行ない,高いピーク電流の条件下でもビーム品質が劣化しないことを確認した。さらに,BL2とBL3の同時運転時のレーザー出力を計測し,40ギガワットを超える高い出力が得られていることを確認した。

これによって,SACLAの特徴である超短パルスと高いレーザー出力を最大限に生かした実験が,2本の硬X線FELビームラインで同時に行なえる準備が整った。

2009年に供用を開始した米国のLCLS,2012年に供用を開始したSACLAに続き,2017年にはヨーロッパ,韓国,スイスのXFEL施設が稼働するため,XFELを舞台とした国際競争はますます熾烈になる。SACLAは,2016年7月よりBL3,BL2に加え,軟X線FELビームラインであるBL1の同時運転を実施している。

BL1はSCSSを再利用した独立の専用加速器を有するため,今回の成功は,SACLAが3本のFELビームラインを高出力で同時運転する,類を見ない施設に発展することを意味するという。他のXFEL施設では不可能な,複数ビームラインの高出力同時運転を生かした利用機会の増加による成果の拡充に加え,特色あるXFELの利用法の開拓を通したユニークな成果の創出が期待できるとしている。

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