極地研ら,最速のオーロラの明滅現象を発見・解明

国立極地研究所,東京大学,名古屋大学,京都大学等の共同研究グループは,3年間にわたるオーロラの連続高速撮像により,これまで観測された中で最速のオーロラの明滅現象を発見し,発生メカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。

フリッカリングオーロラは,カーテン状オーロラの一部で明るさや動きが1/10秒前後の速さで周期的に変化するオーロラで,これまでの研究から,高さ数千kmの「オーロラの加速領域」にその明滅の原因があると考えられている。オーロラの元となる電子やイオンは,地球の磁力線の周りをサイクロトロン振動数と呼ばれる周期でらせん運動しており,1/10秒周期というリズムは,この高度に存在する酸素イオンのサイクロトロン振動数に相当する。

さらに,ロケットや衛星によって酸素イオンのサイクロトロン振動数に近いプラズマ波動が観測されていることから,電磁イオンサイクロトロン波と呼ばれる波と電子の共鳴相互作用が,フリッカリングオーロラの形成メカニズムとして有力視されている。

この高度には,酸素イオンのほかに水素イオンも存在しており,水素イオンの振動数に近いプラズマ波動がロケット等で観測されている。しかし,従来のカメラでは高速の明滅を捉えられなかったため,水素イオンに対応して発生すると考えられる,さらに高速のフリッカリングオーロラは観測されていなかった。

また,そもそも,フリッカリングオーロラの発生を待ちかまえて膨大なデータを取り続けることが困難で,フリッカリングオーロラが一体どれだけ速く明滅するかも十分に理解されていなかった。酸素イオンと水素イオンの両方の明滅周期を持つフリッカリングオーロラを発見できれば,電磁イオンサイクロトロン波がフリッカリングオーロラを形成することを示唆する,有力な証拠となる。

研究グループは,フリッカリングオーロラの明滅速度を詳細に調べるため,水素イオンに対応して発生する明滅をも観測できるよう,シャッター速度1/160秒のカメラを用いて,冬季の約4ヶ月間の連続観測を,2014年から3年間にわたってアラスカで実施した。

観測で捉えた1/80秒という高速の明滅は,酸素イオンでは説明できず,水素イオンの寄与を初めて示唆した。また,この高速の明滅が典型的な1/10秒周期の明滅と同時に観測されたことから,フリッカリングオーロラを引き起こす原因は,酸素と水素の両イオンの影響を受けた電磁イオンサイクロトロン波であると考えられる。

オーロラの加速領域では,加速された電子やイオンにより様々なプラズマ波動が発生している。また,今回の研究からも,そのプラズマ波動によって電子やイオンが再び影響を受けるというような複雑なエネルギーのやりとりが起きていることが推定される。

地球のように磁場を持つ天体は宇宙にあふれており,そのような天体では,加速粒子によるプラズマ波動の励起や,プラズマ波動と粒子の相互作用が普遍的に起こっていると考えられるが,その詳細を観察できるのは,現在のところ地球のオーロラだけ。宇宙空間でのプラズマの基本的な在り方を理解するために,今後,プラズマ波動と粒子の相互作用は地球物理学で追及すべき重要な課題であるとしている。

また,1/80秒周期という速いオーロラの変動が見つかったことにより,極限的なオーロラの未知の姿を明らかにするためにも,今後さらに高速で記録していく必要があることも分かった。研究グループでは現在,毎秒320フレームでの連続観測を実施しているという。

その他関連ニュース

  • 東北大ら,波長1.1µmで発光するオーロラを撮像 2024年03月14日
  • JAXAら,水星へと降り込む電子を直接観測 2023年07月19日
  • 金沢大ら,オーロラ発生で中間圏オゾンの減少を発見 2022年10月12日
  • 極地研ら,オーロラ観測にCTを応用し3D構造を復元 2022年08月26日
  • 金沢大ら,コーラス電磁波の周波数特性に知見 2022年05月11日
  • 名大ら,オーロラにロケットを命中させて観測 2022年03月29日
  • 名大,カムチャツカで赤い低緯度オーロラを観測 2021年11月11日
  • エイブリックら,オーロラ観測用紫外線カメラ開発 2021年09月30日