東北大ら,反強磁性体スピンを反転する電圧を2桁減

東北大学大は,クロム酸化物の反強磁性スピンの向きを低電圧で180度反転させることに成功し,反転に必要な電界の大きさを2桁低減する技術を開発した(ニュースリリース)。

研究グループは,Coなどの強磁性体薄膜とのヘテロ接合において,記録(記憶)層に用いるクロム酸化物反強磁性体薄膜の膜厚が薄くなるほど反強磁性スピンの反転に必要な電圧が増大してしまうという問題を解決するため,その原因をエネルギーバランスの観点から調べた。

その結果,反強磁性スピンの反転有無を磁化信号として読み取るために用いる強磁性体薄膜との間の交換結合エネルギーが電圧による反強磁性スピンの反転の妨げになっていることを突き止めた。

また,反強磁性スピンの反転に必要なエネルギーバランスの関係を調べ,反強磁性体であるクロム酸化物薄膜に弱い強磁性磁化成分を付与することで,反強磁性スピンの反転がアシストされることを見出し,交換結合ヘテロ構造を最適化することで,反強磁性スピンの反転に必要な電界を大幅に低減することが可能であることを発見した。

さらに,スパッタリング法で作製したクロム酸化物薄膜に生じる弱い強磁性磁化成分を利用し,反強磁性スピンの反転に必要な電界を2桁低減できることを実験検証することに成功した。これにより磁気記録デバイスへの適用に必要な数十㎚のクロム酸化物反強磁性体薄膜の反強磁性スピンの低電圧制御が可能となり、磁気メモリなどのスピントロニクスデバイスへの応用が現実的となった。

この研究の成果を磁気メモリやハードディスクドライブなどに適用することにより,漂遊磁界の抑制による高記録密度化や書き込み時のジュール発熱の抑制による,より一層の低消費電力化が期待されるという。

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