産総研,高出力レーザーの精密パワー制御に成功

産業技術総合研究所(産総研)は,加工用の高出力レーザーのパワーを高精度に制御するシステムを開発した(ニュースリリース)。

炭素繊維強化プラスチックなどの難加工材や,自動車ボディーなどの鋼板の溶接に,高出力レーザーによるレーザー加工が利用されるようになってきた。しかし,これらの加工用レーザーの多くは,周囲の温度変化やレーザー装置の予熱状態などによってパワーが揺らぐという問題があった。この揺らぎは,加工の精度や歩留まりに影響するため,特に高出力レーザーのパワーを高精度に制御し安定化させる技術が望まれていた。

プリズム底面に入射したレーザーが全反射するとき,プリズム底面の外側,数百ナノメートル程度の範囲に「エバネッセント光」と呼ばれる光が染み出すが,そこに別のプリズムを近づけると,エバネッセント光の一部を近づけたプリズムへと抽出できる。

このとき,もとの光のパワーは別のプリズムに抽出された分だけ減少する。抽出される光の量は2つのプリズム間の距離に依存するため,この距離を変えることで反射光のパワーを制御できることが知られている。今回,システムの出射口にパワーモニターを設置し,その測定値が目標値に一致するように,2個のプリズム間の距離を精密にフィードバック制御するシステムを開発した。

従来のパワー制御技術には,光の吸収の大きい光学材料が使われていたが,今回開発したシステムでは,透明度の高いプリズムを用いているため,光の吸収に伴う発熱を抑制できる。これにより,高出力レーザーパワーであっても制御できることを実証した。

今回開発したシステムを用いて,波長が1.1μm,2kW/cm2という高出力加工用レーザーのパワー制御の実証実験を行なった結果,ステップ状に5%以上の変動を与えた場合でも,制御後の変動を,ステップ状の変動直後を除き0.1%以下に抑制でき,レーザーパワーを安定化させることに成功した。また,連続的なパワー変動に対しても,制御後は一定値を維持できることを確認した。

開発したシステムを小型化すれば,加工装置に内蔵することもできる。さらに,レーザービーム断面の光強度分布を制御することも可能であるため,円形のビーム以外に矩形や線状など,材料特性や加工用途に応じた最適なビーム形状を作りだせる,高機能なレーザー加工システムの実現が期待されるという。

今後,今回開発したシステムをもとに,応答特性の改善を進める。また,このシステムを小型化し,レーザーパワーを高精度に制御できるシステムとして,実用化を目指す。さらにビーム形状制御技術の開発にも取り組むとしている。

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