九大ら,霊長類の色覚が顔色の判別に優れることを発見

九州大学,カナダ カルガリー大学,米ニューヨーク大学らの共同研究グループは,霊長類の3色型色覚が,顔色変化の検出に有効であることを初めて実験的に証明した(ニュースリリース)。

ヒトを含む多くの霊長類は,L,M,Sの3つの錐体視細胞により光の波長弁別を行なう3色型色覚で世界を見ている。3色型色覚は,赤い果実や若葉を緑の葉の背景から見つけることに適しているため,祖先型である2色型色覚から進化したと考えられている。

しかし,果実を見つけること以外でも3色型色覚が有効な場面が考えられ,霊長類の行動や生態学的意義と照らし合わせ,幅広く調べていく必要がある。3色型色覚が有効な場面の候補として,顔色変化などの社会的シグナルの検出が挙げられていた。

研究グループは,霊長類の3色型色覚が,顔色変化の検出に適しているかを実験的に調べた。繁殖期に顔が赤くなるアカゲザルの写真を用い,様々な色覚の見え方を模擬して,ヒト参加者にメスの繁殖期と非繁殖期の顔を見分けてもらった。

その結果,霊長類が持っているL錐体とM錐体の波長感度が長波長域に偏った3色型の色覚は,3種類の錐体の波長感度が均等に分布した3色型や,2種類の錐体により色弁別を行なう2色型よりも顔色の変化をよく検出できることが分かった。

この結果は,社会的シグナルの検出が3色型色覚の適応的意義の一つであることを裏付けるもの。ヒトが顔色から感情を読みとり,健康状態を察知できるのも,霊長類が持つこのような色覚特性のおかげであるという。

今後,霊長類進化のどの段階において,顔色変化が社会的シグナルとして使われはじめたかなど,霊長類の色覚の適応進化の過程に迫ることが期待されるとしている。

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