東北大ら,内部量子効率100倍の量子ナノディスク作製

東北大学,北海道大学,北見工業大学らの研究グループは共同で,独自技術であるバイオテンプレート技術と中性粒子ビーム加工技術を融合して世界で初めて高均一・高密度・超低損傷の直径5nmの3次元InGaN/GaN量子ドット(量子ナノディスク構造)を作製することに成功した(ニュースリリース)。

化合物半導体量子ドットレーザー,およびLEDは低消費電力光素子として,また超高速光変調素子として,飛躍的に高まる通信需要に応えユビキタス情報化社会を支える重要な技術であり,広く研究されている。これらのデバイスを実現するにはnmオーダーでサイズや密度,位置などを制御した量子ドット構造の作製が求められるが,従来のトップダウン型のリソグラフィ技術とプラズマエッチング技術に依存した微細加工技術では大きな困難が予想される。

現在,最有力な手法として,ボトムアップ技術とトップダウン加工技術の融合(プロセスインテグレーション)が注目されている。ボトムアップ技術の中でも, バイオテクノロジーは極めて急速に進歩している。一方,トップダウン加工技術では,プラズマから放射される電荷や紫外線を抑制し,超低損傷で高精度のエッチングを可能とする中性粒子ビームの技術が開発され,最先端超LSIを用いてその効果を実証している。

今回,研究グループは,バイオテンプレートと中性粒子ビームエッチングを組み合わせることで,世界で初めて直径5nmのInGaN/GaNの単層構造の超低損傷・高アスペクトエッチングを実現することに成功した。さらにフォトルミネッセンス法により量子ドットの発光および発光強度温度依存性を測定したところ,トップダウン加工により作製された量子ナノディスクとしては初めて,従来の窒化物量子井戸構造の100倍の内部量子効率を確認した。

具体的には,有機金属気相成長装置(MOVPE)を用いて作製したInGaN/GaNのウェハをバイオテンプレート極限加工法により超低損傷中性粒子ビームエッチングを実現することで,量子効果を示す厚さ2nm,直径5nm程度の量子円盤構造を積層した高さ30nm程度のナノピラー構造を,無欠陥に,均一に,高密度(1011-2以上)に,等間隔(20nm)で2次元配置できることを初めて示した。

作製したナノピラーは直径5nmの量子ナノディスク構造が作製され,設計した量子ナノディスク構造の発光波長に対応する420nmから明瞭な発光が確認できた。この量子ナノピラー構造アレイでは,従来困難であった均一なサイズのナノ構造を数十nm間隔で均一かつ高密度に材料を問わず形成できることから,あらゆる波長帯域を実現できる高効率な量子ナノディスクLEDおよびレーザーを実用化できる構造として極めて有望だとしている。

今回用いた装置はプラズマプロセスとして実績があり,最も安定した装置において用いられているプラズマ源をそのまま用い,中性化のためのグラファイト製グリットを付加するだけで実現できることから,今後,数十nm以下のナノデバイスにおける革新的なプロセスとして実用化されていくことも大いに期待されるとしている。中性粒子ビーム技術は既に均一大面積プロセスを実現できるプラズマ源を基盤に装置が実現できるため,極めて実用的。

今後は,中性粒子ビームを用いた表面改質・修飾技術の研究開発を進めて実用的なデバイス開発を大いに推進していく予定。既に,大手装置メーカーと装置化への検討も進んでおり,近い将来の実用化に向けてさらに研究を進めていくとしている。

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