東大,見る方向や偏光で三色に変化する物質を発見

東京大学の研究グループは,5d電子をもつ元素のレニウム(Re)を含む新物質の合成に成功した(ニュースリリース)。この物質は見る方向によって色が変化し,さらに光の偏光により,全く異なる色を示すことを発見した。

宝石のような無機化合物のほとんどは,電子がエネルギーのより高い軌道に励起されるときに特定のエネルギーをもつ光を吸収し,発色する。例えばルビーは,コランダムという透明な鉱物の中に遷移金属元素のクロムが微量に含まれたものであり,クロムの3d電子が光によって励起される際に緑色の光を吸収するため,緑の補色である赤色になる。3d遷移金属化合物は非常に種類が多く,多彩な色を示す無機材料として顔料などに使用されている。

一方,原子番号のより大きな4d遷移金属元素や5d遷移金属元素の化合物は,研究例が少なく,その機能性は開拓されていない。近年,スピントロニクスの分野やトポロジカル絶縁体の分野でこうした元素に注目が集まっており,特に5d電子系において物質開発や機能性の探索が盛んに行なわれている。

さらに,これまでの物質探索は酸化物を中心に行なわれてきたが,2種類以上の陰イオンを含む複合陰イオン化合物において新たな機能性が発現する事が示唆され,この観点からも新物質の探索が行なわれている。

研究では,5d電子をもつ元素としてレニウムを,陰イオンとして酸素(O)と塩素(Cl)を含む新物質Ca3ReO5Cl2の合成に成功した。この物質の色は見る方向によって緑から茶色に変化し,さらに入射光の偏光により,赤・黄・緑の3つの全く異なる色を示すことを発見した。

光学特性を詳しく調べたところ,レニウムの5d軌道に1つだけ存在する電子が,エネルギーの高い空の5d軌道へ励起されるときに可視光を吸収することがわかった。レニウムの軌道状態を計算すると,軌道の対称性と光の偏光方向の関係によって光の吸収が選択的に起こるため,偏光方向によって全く違う色を示すことが明らかになった。

以上のことから,多色性という特殊な性質を示すための条件の1つとして,レニウムの周りの酸素がピラミッド型に結合し,その反対側に塩素イオンがあることが重要であることがわかった。この上下で非対称なピラミッド型の結合により,偏光方向と吸収する光に選択性が生じる。

また,可視光で吸収が起こるためには,5d電子状態が適当なエネルギー分裂をもつことも重要であることが明らかになった。さらに,カルシウムという第4の元素がレニウムと酸素が作る多数のピラミッドの間に入っており,ピラミッド間の距離を保つ役割を果たすことで美しい発色を助けている。

この研究で得られた知見は,今後より強い色の変化や,異なる色の変化を示す物質を開発するための指針を与えるもの。また,この物質のもつ5d電子は磁性を示すので,磁場による色の制御などの展開も期待されるとしている。

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