理研ら,創薬におけるXFELの有用性を確認

理化学研究所(理研)と高輝度光科学研究センター(JASRI)の共同研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いた「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)」という手法を使い,創薬におけるXFELの有用性を示した(ニュースリリース)。

SFXのメリットの一つに,室温におけるタンパク質微結晶の立体構造が得られることがある。従来の放射光による低温実験では得られない生理的条件に近い構造が得られるため「構造に基づく薬物設計(SBDD)」に利用できる可能性がある。しかし,実験的な検討や検証はこれまで行なわれていなかった。

SBDDでは,タンパク質と創薬候補の低分子化合物(リガンド)の複合体の結晶構造が必要。そのタンパク質-リガンド複合体の結晶は一般的に,リガンド化合物を含む水溶液にタンパク質結晶を浸す「ソーキング法」によって調製する。

そこで共同研究グループは,モデルタンパク質のサーモリシンを用いてソーキング法でサーモリシン-リガンド複合体微結晶を調製し,SACLAのビームライン(BL3)でSFX実験を行なった。

また,大型放射光施設「SPring-8」の放射光を用いて,従来の100K(約-173℃)という低温条件での結晶構造解析も行ない,SFXとの違いを詳細に調べた。その結果,SFXによるタンパク質-リガンド複合体の微結晶構造解析は,従来から一般的に使われているソーキング法で調製した試料を用いて実行でき,室温構造を非常に高い再現性で得られることが分かった。

また,SFXによる室温構造と従来の低温構造では,化合物の結合様式にはっきりとした違いが見つかった。つまり,SFXから得られる構造情報は,タンパク質-リガンド間の生理的状態での相互作用をより正確に反映していることが示された。

研究グループは今後,SFXがSBDDにおける化合物(薬剤)探索に役立つツールとして確立することで,製薬企業などのXFEL利用が進むことが期待できるとしている。

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