産総研,光コムによる気体温度の精密測定に成功

産業技術総合研究所(産総研)は,超短光パルスレーザーを2台用いる「光コム」(デュアルコム)によって,気体の温度を測定する新たな技術を開発した(ニュースリリース)。

自動車エンジンの内部において,詳細な燃焼メカニズムの解明が進めば燃費の向上に向けた技術開発への貢献が期待できる。現在,気体の温度測定には光ファイバー温度計や放射温度計などが使われているが,実用上は10 ℃程度の測定精度のものが多く,また,適用温度範囲に制約があるなどの課題があった。

気体分子は,その種類に固有の周波数(波長)の光を吸収する。さらに,その吸収量は温度と相関があることが知られている。そのため,気体分子が吸収した光の周波数や量を詳しく測定すれば,分子種の特定や,温度測定が可能となる。

そこで今回,パルス間隔がわずかに異なる2つの「光コム」を干渉させるデュアルコム分光技術により,アセチレン分子の吸収スペクトルを,波長1.5µm付近(周波数194THz~198THz)で測定した。この領域におけるアセチレン分子の吸収スペクトルは幅の狭い線状の吸収からなるが,デュアルコム分光技術を用いることで,これらの多数の吸収スペクトルを一度の測定で取得することができた。

また,測定した吸収スペクトルから温度を求める際には,量子力学に基づいた理論式を用いて一括解析する解析手法を考案した。この解析によるアセチレン分子の温度解析の誤差は±1℃以内であった。今回のデュアルコム分光技術は,一度の測定で得た50本の吸収線の強度を用いて解析しているため,吸収量に与える温度以外の影響が低減され,温度測定の精度が向上した。

今回の技術は,1.0µm~1.9µm(周波数約158THz~300THz)という広い波長範囲を短時間・高分解能で測定できる。そのため,水(1.38µm,1.87µm付近),二酸化炭素(1.44µm付近など),メタン(1.67µm付近),アセチレン(1.04µm,1.52µm付近)などの複数の気体の混合気体であっても,広い範囲に存在するそれぞれの気体分子の吸収スペクトルを同時に高精度測定できる。それぞれを解析することで,従来技術では不可能であった燃焼ガス点火後の分子種ごとの温度やその変化などの観測もできるとしている。

研究グループは今後,混合ガスに含まれる複数種の気体分子の温度を同時に測定する実証実験に取り組む。また,装置の小型化や,データ取得・解析技術の改良を進め,産業現場でも使用できるリアルタイム温度測定システムとしての実用化を目指す。

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