東工大ら,分子の配向パターンを一段階で形成

東京工業大学,カナダ マギル大学らの研究グループは,液晶など大面積の二次元的な分子配向パターンを自在に制御できる新たな光重合法の開発に成功した(ニュースリリース)。

液晶分子は外部刺激を加えることで簡便に階層構造を制御できるため、液晶ディスプレーなど多種多様な高機能材料に展開されている。近年では大面積に二次元的な微細配向パターニングを液晶材料に施すことでユニークかつ高度な機能創出を実現しており,最も有力な手法として光配向法がある。

色素を含む液晶系へ偏光を照射すると,偏光方向に依存した分子配向をパターン形成できる。しかし,原理的に高価な偏光光源と光応答分子の組み合わせが欠かせなかった。さらに,二次元配向パターンの解像度は原理的にミリスケールのパターンが限界で,かつアレイ状パターンの形成には膨大な時間と光エネルギーが必要だった。

研究グループは,重合性液晶分子の光重合過程において光を時空間的に動かすことで,二次元的な配向パターンが一段階で形成できる新手法「動的光重合」を新たに開発した。光照射条件(形状,動き,強度)を変調するだけで,重合によりさまざまな分子を自在に配向できる。

スリット状の光を一方向に動かしながら重合すると一軸分子配向パターンを大面積に形成できた。また、ドット状の光を並べて動かすことにより、螺旋状の周期的な分子配向を簡便に作成できた。さらに、同心円状の光を拡大して動かすことにより、放射状の分子配向をもったフィルムの作成にも成功した。

パターン露光により,放射状分子配向が規則的に集積することや幅2µmの露光部の中でも放射状分子配向が誘起できることを確かめた。既存技術で作成できるパターンと比較して1万分の1の微細化に成功した。また,既存技術では集積するために,放射状分子配向を1つずつ作製する必要があったが,動的光重合法では任意のパターンを露光するだけでよい。色素や偏光が不要で,必要な露光量も従来と比べて1/100に低下した。

今回,開発した動的光重合法は新たな機能材料を簡便に創成できる利点がある。大面積一軸分子配向フィルムは次世代フレキシブルディスプレーのキーになる技術として,また大面積螺旋状分子配向フィルムは偏光を選択的に回折する偏光ホログラム素子として,さらに放射状分子配向フィルムは偏光が特異的に変化したベクトルビーム作成素子として期待されている。

今回,開発した動的光重合技術は,既存の光配向法では困難なマイクロスケールな二次元分子配向パターンを大面積に形成できるため,新たな機能有機デバイス創成への貢献が期待されるという。さらに,色素も偏光光源も不要なため,工場の既存製造ラインに適用しやすい利点もあり,今後は高精細フレキシブルディスプレーへの応用が見込まれるとしている。

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