東大,キラルな筒状分子で最強円偏光発光を実現

東京大学の研究グループは,炭素と水素からなる筒状分子のキラリティ(右手性と左手性)が,その分子の集積構造や光物性という興味深い特徴を決定づけることを明らかにした(ニュースリリース)。

単層カーボンナノチューブ(CNT)の「剛直で筒状」という構造は,新物質・新材料の展開が可能となると期待されており,研究グループでは2011年,その構造を分子で実現し,キラリティをもつ筒状分子を登場させた。この筒状分子は炭素と水素の簡素な元素構成からなる。今回,この「筒状分子のキラリティ」が,独特な物性を決定づける重要な要素であることが明らかとなった。

最初に研究グループは,筒状分子が結晶固体中,二重のらせん階段状に積み重なる(集積する)ことを見つけた。二重らせんという高次な集積構造は,自然界では核酸分子やたんぱく分子などでよく見られるが,炭素と水素のみからできている分子(炭化水素)では見つかったことはない。これは分子間の相互作用が弱く,さらに方向性がないため。

今回の発見は,弱い分子間相互作用でも,「筒状」という独特な構造を付与することで高次集積構造が実現できることを示した。研究グループではさらに,らせんの巻き方(右巻き・左巻き)が筒状分子のキラリティにより決定されていることを見いだした。これは分子上のキラリティが,ナノサイズの集積体に伝播することを示すもの。

次に研究グループは,筒状分子から史上最強の円偏光発光を見いだした。円偏光発光で強度を実現するためには,金属を活用することが必須とされていたが,最近,金属を含まない有機分子でも円偏光発光は実現できるようにはなったが,その強度を示す非対称要素g値での最高値は1967年に記録された0.035だった。

この値はケトンで実現されていたが,その作用機作は十分には理解されていなかった。今回の研究では,筒状分子が非対称要素g値で0.152という,有機分子として最も高い値を示すことがわかった。桁違いの強度を実現したもので,有機分子での円偏光発光強度が50年ぶりに更新された。

研究グループは,理論化学による解析により,この強い円偏光発光の秘密が「剛直な筒状」構造にあり,巨大な磁気遷移双極子モーメントが史上最強の円偏光を生み出す原動力であることを見つけた。これは円偏光発光材料の新しい分子設計指針を示すもので,今後,単層CNTを含めた筒状分子が,有用な光学材料として活用されることを予見させる成果だとしている。

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