東大,量子もつれ光子対から電子と光子の対を生成

東京大学の研究グループは,量子力学の重要な性質である量子もつれ相関を持つ1対の光子から,1個の電子と1個の光子の対が生成できることを世界で初めて実証した(ニュースリリース)。

これまで量子もつれ相関は,光子同士や電子スピン同士といった同種の粒子間で主に生成され,研究されてきた。しかし,光子対の量子もつれ相関を光子と電子スピンの対へ転写できることは実証されておらず,未だ挑戦的な基礎物理学の課題として残されていた。

研究グループは,単一の偏光もつれ光子対から,GaAs量子ドット中に単一の電子スピン,空間的に離れた場所に単一光子,というもつれ対を生成,検出する実験手法を考案した。これまで研究グループでは,GaAs量子ドットに単一の偏光した光子を照射し,これと相関をもつ電子スピンを生成,検出する実験に成功していた。

研究では,光源として単一の偏光光子ではなく,自発パラメトリック下方変換(SPDC)という方法で発生させた,偏光量子もつれ相関を持つ光子対を用いた。実験の内容としてはまず,光子対の一方の光子を量子ドットに照射して,その中に単一の電子を生成し,これを量子ドット近傍に設けた電荷計で検出した。また,残りの光子を離れた場所にある単一光子検出器によって検出した。

この実験の偏光光子対には同時発生の性質があることから,量子ドットで電子が生成される事象と同時に電子と相関を持つ光子が離れた場所にある検出器で観測されることが予想される。光子で生成された電子は,電荷計を用いて10マイクロ秒の時間幅(時間窓)で検出される。

この実験では,光子対照射を繰り返して電荷検出の信号を多数回取得し,時間窓において,電荷検出が起きたのと同時に光子が光子検出計によって検出されるような事象を観測した。しかし,この同時検出では,電荷検出に必要な各データ点当たりの最小の積算時間が有限であるために,同一の光子対から作られた電子と光子の対ではない事象も誤りとして入ることが問題だった。

そこで,電荷検出を条件としない場合に光子が検出される確率と電荷検出を条件とする場合に光子が検出される確率を厳密に比較した。その結果,電荷検出の条件が有る場合に限り検出確率が増大し,1個の光子の検出確率が顕著に増加することを確認した。

この増加分が同一の光子対から生成した電子と光子の対によるものであり,単一の光子対から,相関をもった光子と電子の対が生成されていることを示している。

これは先の単一偏光光子を用いた実験を参照すると,単一のもつれ光子と電子の対が生成できていることを意味するもの。この結果は,懸案となっていた,もつれた光子対から異なる種類の基本粒子の量子もつれが生成できることを示す世界初の実証実験だという。

この成果は,光を用いた量子通信の通信距離制限を打開すると期待され,中継器への応用も見込まれるとしている。

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