生理研,CNTで電顕による神経回路観察法を高効率化

生理学研究所(生理研)の研究グループは,従来とは比べ物にならないくらい容易に,高解像度かつ立体的な脳組織の微細構造の観察を実現する脳の神経回路構造を観察解析する方法を開発した(ニュースリリース)。

現代の脳科学では,電子顕微鏡を用いて,あらゆる動物の脳全体の神経回路網を描出する試みが世界中で行なわれている。電子顕微鏡で脳の微細構造を立体的に把握するためには,50nm程度の超薄切片を専用の超薄切装置(ウルトラミクロトーム)で作成し,それらを丹念に手仕事で回収していた。

連続して回収した超薄切片は電子顕微鏡で観察・撮影され,さらに手動で画像同士をつなぎ合わせることで,立体画像を構築していた。主要な作業は全てが手作業であるため,小さな領域を観察するだけでも,非常に甚大な時間と労力を必要としていた。

研究グループは,まず初めにテープ自動回収型連続超薄切片切削装置(ATUMtome)(組織標本を20-100nm厚程度の薄さに超薄切片を切り出す装置に,テープ自動回収装置を装備した電子顕微鏡切片作成装置)を用いて,特殊な樹脂で固めたラットの脳のブロックから,25~50nmの厚さの連続超薄切片を自動でテープの上に回収し,走査型電子顕微鏡を用いて観察・撮影することを試みた。

電子顕微鏡は,電子を高圧で超薄切片に当て,跳ね返って来た信号を検出し画像にする。高画質の画像を撮影する一つの重要な要件として,その画像信号以外の余分な電子をいかに効率的に接地(アース)経路で逃がすことができるかということがある。

これに対し,導電性が高いテープの上に切片を乗せて観察することが一つの有効な手段となる。従来は,「カプトンテープ」というプラスチック系のテープの表面にカーボン蒸着処理を施して導電性をもたせたものを使っていた。ところが,このカーボンコートカプトンテープは導電性が十分でなく,高解像度画像の撮影には最適とはいえなかった。

そこで研究グループは,非常に優れた導電性をもつ素材であるカーボンナノチューブ(CNT)に注目,CNTコートPETフィルムをATUMtome用に加工処理した。さらに,このCNTフィルムとほぼ同時期に開発していた,特殊な組織処理技術によって処理を施したラットの脳組織から超薄切片を作成し,このテープに回収した上で,高解像度で広範囲をほぼ自動で撮影する新型走査型電子顕微鏡で観察した結果,脳組織の広範囲にわたり,鮮明な微細構造を高解像度で観察撮影することに成功した。

研究グループは今後,0.5mm大の動物の脳組織の微細構造を観察撮影して解析を進め,脳の局所神経回路構造の解析を進めたいとしている。さらに,近い将来はセンチメートル単位のマウス脳や,さらに大きな動物の脳神経回路地図の作成につながる技術の開発を進めていくという。

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