農研機構ら,肉の「加熱状態」と「pH」を赤外光で可視化

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と仏国立農学研究所(INRA)は,食肉の消化されやすさに関係するタンパク質の「加熱状態」および「pH」を,赤外スペクトルの測定により,同時検出して可視化する技術を開発した(ニュースリリース)。

高齢社会の進行とともに高齢者の低栄養状態が大きな問題となっている。食が細い高齢者にとって,適量の食肉摂取は重要とされている。しかし,咀嚼力の低下した高齢者は,硬くて咀嚼しにくい食材を敬遠する傾向が見られる。これを受け,加熱しても硬くなり難い食肉加工品など,食肉の組織構造を部分的あるいは全体的に改変した様々な高齢者向けの製品が開発されている。

一方,食肉タンパク質の消化吸収には,調理法や,タンパク質への消化酵素の作用のしやすさが関係する。調理過程で加熱をし過ぎた場合や,胃でpHが十分に下がらなかった場合,胃への負担が増加する可能性がある。食肉製品の組織構造を改変することは,火の通りやすさや胃液の浸透しやすさに影響し,消化吸収にも違いをもたらしている可能性がある。

そこで,研究グループは,仏放射光実験施設SOLEILソレイユとの共同研究により,消化吸収の優れた食肉製品の開発や適切な調理法の提案に役立つと考えられる,食肉タンパク質の加熱状態とpHを簡単に同時検出する技術を開発した。

食肉試料から凍結切片を作製して赤外スペクトルを測定し,特定の波長の値を比較することで,タンパク質の加熱状態とpHを同時に判定できる。pH判定では,pHがタンパク質消化酵素であるペプシンの活性化の目安である約3.9より高いか低いかを判定する。加熱の有無,pHの誤判別率はそれぞれ0.9%,0.5%となっている。

食肉試料を破壊・抽出することなく,構造を保ったまま食肉タンパク質を解析できる。赤外顕微鏡を用いることで小さな領域の測定が可能で,これまで測ることのできなかった,加熱調理前後の食肉試料の任意の部位の加熱状態やpHを高空間分解能(数10μm)で測定し,可視化できる。霜降り肉など脂肪の多い食肉においても,タンパク質を含む部分を空間的に分離することで,その場解析を可能にしている。

この技術により,試料の赤外スペクトルから簡単に,胃を模した環境での胃酸によるpH変化や,調理による加熱変化が測定できるようになり,食肉タンパク質の消化されやすさの評価が可能になった。この技術は消化性を低下させない食肉の適切な調理法や,消化されやすい食肉製品の開発に役立つと考えられるという。

例えば食品工場において過度なタンパク質の熱変性をさせない調理法の選択や,消化機能が低下しがちな高齢者向けの消化されやすい製品の開発,胃の調子が悪い人に向けた病院食の改善などに繋がると期待される。今後,消化されやすい食肉製品開発を目指す企業などとの連携を進めるとしている。

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