東大ら,バルク/薄膜結晶で異なるスピン状態を観測

東京大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,軟X線の共鳴非弾性散乱を用いて,ペロブスカイト型ランタン・コバルト酸化物(LaCoO3)におけるコバルトの電子状態・スピン状態を直接観測することに成功した(ニュースリリース)。

共鳴軟X線非弾性散乱の測定はSPring-8に設置されている超高分解能共鳴軟X線非弾性散乱装置(HORNET)で行なった。コバルトイオンの吸収が起こる780eVのエネルギーをもつ軟X線をランタン・コバルト酸化物に照射し,散乱された軟X線のエネルギーの非弾性散乱スペクトルを測定した。

試料に吸収されたエネルギーの一部は電子配置を変化させることに使われ,スピンの大きさも変化するため,非弾性散乱スペクトルからコバルトイオンのスピン状態を調べることができる。スピン状態と非弾性散乱スペクトルの対応関係を明らかにするため,不純物アンダーソンモデルと呼ばれる理論計算を行ない,その理論計算と実験結果と比較することでコバルトイオンのスピン状態を推定した。

スピン状態を見分けるためには高いエネルギー分解能が必要となるが,国内最高のエネルギー分解能(~300meV)での実験が可能なこの装置によってスピン状態を解明することに成功した。

測定に用いた試料は,LaCoO3のバルク単結晶とLSAT基板上に成長させた薄膜結晶。薄膜結晶の膜厚は30nmで,基板の方位を変えることで異なる歪みの大きさを実現している。実験では,それぞれの試料に対してコバルトイオンの吸収スペクトルと共鳴非弾性散乱スペクトルを測定した。

これまでの研究からバルク結晶と薄膜結晶は異なるスピン状態であると考えられているが,吸収スペクトル形状に明確な違いは見られなかった。今回得られた非弾性散乱スペクトルでは,エネルギー損失が1eV付近のスペクトル形状に大きな違いがあることが分かった。

理論計算で求めたスペクトル形状と比較することでスピン状態の構成成分と割合が違うことが分かり,吸収測定では判別できなかったスピン状態を非弾性散乱測定によって明らかにすることができた。

この研究により,超高分解能の共鳴軟X線非弾性散乱装置を用いて,判別することが困難であったコバルトイオンのスピン状態を明確に分離して観測することに成功した。さらに,薄膜結晶では基板からの歪みによってスピン状態が変化することを詳細に観測することができた。この測定手法を用いることで,電子状態の違いを高精度に検出できるため,他の強相関電子系物質の電子状態・スピン状態の解明への応用が期待される。さらに,LaCoO3で近年新たに提唱された励起子絶縁体の電子状態を明らかにする研究への発展も見込まれるとしている。

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