阪大ら,トラップイオンで長距離光子配送を実現

大阪大学,情報通信研究機構(NICT),英サセックス大学らは,トラップされた単一イオンからの光子を光ファイバーで長距離に送信することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

量子暗号通信は任意の計算機に対するセキュリティを可能にするが,光ファイバー通信を利用して長距離で実現するためには,技術的に克服しなければならない課題が存在する。特に,量子情報のキャリアである光子のファイバーでの損失を低減することが重要となる。

現在の通信で使われる中継器では量子情報が壊れてしまうために,量子力学の原理で動作する量子中継器が必要となる。いくつかの方式があるが,どの方式でも光子の量子情報を壊さずに損失を検知する量子演算が重要になる。

トラップされたイオンは量子コンピューターを実現する演算が全て可能な量子情報処理媒体の一つであり,光の量子状態を読み書きして記憶し,量子演算をすることで,量子中継に必要な処理を実現できる。しかし,これまで実現しているトラップイオンは光ファイバー通信波長の光を読み書きできなかった。

大阪大学とNICTは,カルシウムイオンの共鳴波長である866nmの光子を光ファイバー通信波長である1550nm帯へ変換する高効率で低雑音の波長変換器を実現した。これにより,従来問題となっていた波長ギャップを埋めることが可能になり,カルシウムイオンに対して通信波長の光子を読み書きすることが可能になる。

この単一光子波長変換器を英サセックス大学の光共振器結合したカルシウムイオントラップに組み込むことで,カルシウムイオンからの単一光子を通信波長帯(1550nm帯)へ変換する実験に成功した。866nmでは10kmも進むと1000分の1の光子しか残らないのに対して,1550nm帯では約15kmまで半分の光子が残る。

この波長変換による損失低減によって,トラップイオンでは世界初となる10kmの単一光子ファイバー通信を実現した。変換効率を加味しても,866nmの単一光子の直接送信を十分に超える効率となり,波長変換器の優位性が明確に示される結果となった。

この成果により,トラップされたカルシウムイオンが光ファイバー通信波長の光子によりアクセス可能であることを示すことができた。開発した波長変換器を更に改良することで,カルシウムイオンと量子もつれにある光子を光ファイバー通信波長に変換し,量子ネットワークを形成することが考えられるという。

更にカルシウムイオンを演算装置として,光の量子状態を操作する量子情報処理を行なうことができるようになれば,長距離量子暗号通信を可能にする量子中継の実現が期待できるとしてる。

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