阪大,分子対称性が支配するキラル新材料を開発

大阪大学の研究グループは,らせん分子の代表選手であるヘリセンを様々に配列・検証し,対称性の高いS型およびX型配置が物性向上の鍵となることを世界で初めて明らかとし,実際に合成して実証した(ニュースリリース)。

これまでキラル材料の設計・合成においては信頼できる理論体系がなく,その年代ごとに合成できるようになった分子をやみくもに作ってみるか,化学者が経験と直感をもとに個別に設計するかしかなく,理論に裏打ちされた設計指針は存在していなかった。

今回,研究グループは,まず,代表的なキラル材料であるヘキサヘリセンを様々な配置にブロックのように並べて,そのキラル物性がどのように向上されうるかを量子化学計算を用いて徹底的に調査した。その予測結果は,対称性の高いS型,X型配置において性能の向上が見られることを示唆することが判明した。

また,並べる数や間隔などについても検討した結果,最終的に,二つのヘキサヘリセンが融合した,ダブルヘリセンが最適な材料となりうることを見出した。

以上の考察をもとに,今回,対称性の高い二種類のS型,X型のダブルヘリセンを検討対象として設定し,合成に成功した。また,そのキラル物性が飛躍的に向上することを明らかとした。さらにその要因を追求し,物性の向上には磁気遷移双極子モーメントの強度に加え,その方向が重要な要因であることをも解明した。これは分子の対称性により決定されている。

すなわち,美しい分子ほど性能が高いという,これまでの化学者の直感を理論的に裏付ける結果となった。これらの研究成果は,理論と実験の両面から,完全な円偏光発光性分子を合理的に設計する指針を得る一助になったと考えることができるという。

今回,美しく高性能なダブルヘリセンが得られたと共に,いかに論理的に分子を配置し,あるいは設計すればよいかという,キラル材料の論理的な新しい方法論が明らかとなった。すなわち,直感的な設計・合成,検証という従来型の材料開発から脱却した戦略により,材料開発コストを飛躍的に改善することが可能になったとする。

これらの成果により,3Dディスプレーや医療現場の内視鏡技術といった円偏光発光を用いた分野での応用など,技術革新の飛躍的なスピードアップに貢献するものだとしている。

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