千葉大ら,有機半導体の伝導機構に新たな知見

千葉大学,分子科学研究所,独イェナ大学の国際共同研究グループは,有機半導体のホールが流れる最高被占軌道HOMOと電子が流れる最低空軌道LUMOの分子軌道の分裂を観測することに成功した(ニュースリリース)。

有機半導体デバイスは,プラスの電荷をもつホールとマイナスの電荷をもつ電子が動くことで動作する。しかし,本来は絶縁体である有機物の中をどのようにしてホールや電子が流れるのか,よくわかっていない。電気が流れるということは,有機半導体の分子と分子の間を「分子軌道の重なり」を伝わって電荷が移ることなので,分子軌道の重なりが測定できれば,有機半導体を電気が流れる仕組みが解明できる。

分子にはたくさんの分子軌道があるが,電気伝導に関わるホールが入っている最高被占軌道(HOMO),電子が入っている最低空軌道(LUMO)が重要。HOMOとLUMOの重なりを調べれば,ホールと電子が流れる機構がわかる。

研究グループは,分子軌道の重なりを調べるのに,量子力学の基本原理に注目。量子力学によれば,分子軌道が重なると,重なりの大きさに応じてエネルギー準位が分裂する。これまでHOMOについては2分子の分裂が観測されていたが,3分子以上のエネルギー準位の分裂を測定した例はなかった。また,LUMOについては分裂を観測した例はなかった。

このような研究を実現するには,ナノ構造の制御とLUMOの測定という二つの課題を克服する必要がある。研究グループは,錫フタロシアニンという有機半導体分子を,炭素(グラファイト)の基板表面に並べると,2分子,3分子と5分子まで縦に並んだ1次元スタックというナノ構造ができることを見出した。

LUMOの精密測定は,低エネルギー逆光電子分光法により初めて可能になる。従来の方法では,LUMOの分裂は原理的に測定できなかったり,測定できても精度が低いという問題があった。

このようにして数をそろえて並べた分子のナノ構造について,紫外光電子分光法でHOMO,低エネルギー逆光電子分光法でLUMOを測定した。その結果,HOMOとLUMOの両方について,分子軌道の重なりによるエネルギー準位の分裂を5分子まで観測することに成功した。

この結果を基に,分子軌道の重なりの指標である「移動積分」をHOMOについては100±10meV,LUMOについては128±10meVと決定した。これまでHOMOの移動積分の測定値はあったが,LUMOの移動積分は今回が初めての測定値となる。

この成果により,有機EL素子や有機太陽電池などのホールと電子の両方が動作する両極性素子の性能の根本的な改良,n型とp型トランジスターを組み合わせた動作速度の速いコンプリメンタリ回路の実現など,現在の有機エレクトロニクスの限界を超えることが可能になり,幅広い波及効果が期待されるとしている。

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