阪大ら,磁石中のEr集団が遠距離で影響し合うことを発見

大阪大学と米ライス大学は共に,ErFeO3という磁石にて,遠くにいるEr元素がお互いに影響を及し合い,Er元素の集団が「合唱」することを見いだした(ニュースリリース)。

カエルの合唱やホタルの集団発光など,一つの個体の行動に促されて集団全体で同じ行動をとる現象が,世界中に多く存在しており,磁石でもその一つが観察できる。磁石を構成する一部の元素は,それぞれが小さな磁石となっており,それらが同じ向きに揃うことで,大きな磁石が得られる。

これまで,隣同士や近い距離にいる元素同士が影響を及し合う,いわば「伝言ゲーム」によって,元素(小さな磁石)の集団が同じ向きに揃うと基本的に考えられてきた。一方,カエルのように,遠くの元素にまで届くような「声」を発し「合唱」することで,元素の集団が同じ向きに揃って磁石になる場合もあるのではないかと古くから指摘されていた。しかし,その証拠はいまだ得られていなかった。

今回,研究グループは,ErFeO3に磁場を掛けてErが発する「声」の周波数を,「声」を伝えるFe元素の周波数に一致させようとすると,2つの周波数が反発し合うことを発見した。そして,反発の大きさがEr密度の平方根に比例することを確認し,Er集団が「合唱」することを突き止めた。

研究グループは,今後,この遠距離にわたってEr元素が影響を及し合う「合唱」によって磁石としての性質が確かに発現することを観測していくとしている。

この研究成果を発展させていくことで,量子情報技術におけるノイズ問題の新たな解消法を確立できる可能性がある。また,研究グループは,他の磁石などでも同様の実験を行なっていくことで,Fe元素ではなく光を介して「合唱」し磁石となるような物質を見つけようとしている。そのような物質を発見できれば,熱によって温度が上がり磁石ではなくなるときに,レーザー光のような光を放出する可能性があり,熱から光への直接的なエネルギー変換技術なども確立できる可能性があるとしている。

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