産総研ら,長期間運転可能なYb光格子時計を開発

産業技術総合研究所の研究グループは,横浜国立大学と共同で長期運転できるイッテルビウム(Yb)光格子時計を開発した(ニュースリリース)。

近年,光格子時計など光を用いた原子時計の進展は目覚ましく,国際度量衡局で開催されたメートル条約関連会議において,2026年頃をめどに,時間の単位である「秒」の定義を現行のマイクロ波から光に基づく定義に変更することが検討されている。

定義改定に向け,国際的な標準時である国際原子時の精度向上に貢献できること,原子時計自身の精度を向上させることなどの必要条件が示され,これらの条件を達成すべく,さまざまな原子を用いた研究が各国で展開されている。

レーザーは周波数安定度に優れ,理想的な振動子(振り子)に近いと考えることができるが,長期的には周波数が徐々にずれていく。この周波数のずれを原子のある準位間の遷移の共鳴周波数を基準に補正することでより理想的な振動子が実現でき,時計の精度が向上する。光格子時計では,レーザー光を重ね合わせて作る光格子という容器に,約千個の原子を捕獲する。これにより信号が大幅に増加し,精度の向上に寄与する。

イッテルビウム光格子時計は多数のレーザー光源を用いるが,時計の動作には,全てのレーザー周波数を精密に制御する必要がある。一般に,この制御を長期間持続させることは難しく,時計の運転時間を制限する要因となっていた。

イッテルビウム原子は常温では固体であり,オーブンで約400℃に加熱し気体蒸気にする。このようにして得られる原子の速度は音速程度であり,すぐに光格子に捕獲することができない。

そのため,減速レーザー(波長399nm),冷却レーザー(波長399nmおよび556nm)を照射することで約10µKに冷却し,原子を光格子に捕獲できる速度まで減速させ,波長759nmのレーザーで作った定在波による光格子に減速した原子を捕獲する。

光格子に捕獲された原子に波長578nmの振動子の役割をはたすレーザー(時計レーザー)を照射し,原子のある準位間の遷移の共鳴信号が最大になるように時計レーザーの周波数をチューニングすることで,高精度な基準信号が作られる。

今回,研究グループは時計の動作に必要な全てのレーザー光源を光周波数コムで制御する,新しい制御システムを構築することで,イッテルビウム光格子時計の安定した動作を実現させた。

数カ月の実験期間内において1回3時間以上の運転を定期的に行ない,積算運転時間は60時間以上となった。長期運転はこれまで他機関のストロンチウム光格子時計で実現されていたが,イッテルビウムにおいても実現可能であることを示した。

この安定動作可能な光格子時計を用いることで,時計としての誤差要因を詳細に評価することが可能になり,時計の精度が9000万年に対して1秒程度の誤差に相当することを確認した。開発したイッテルビウム光格子時計により,将来の国際原子時の精度向上への貢献が期待されるとしている。

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