東大,チャネルロドプシンの吸収波長シフトを解明

東京大学の研究グループは,チャネルロドプシンの中でも最も長波長である590nmに吸収波長ピークを持つChrimsonと呼ばれるタンパク質の立体構造を決定し,さらに,これらの情報をもとに野生型のChrimsonにアミノ酸変異を導入することで吸収波長がさらに長波長にシフトした,改変型Chrimson(ChrimsonSA)を作成することに成功した(ニュースリリース)。

ロドプシン類の中でも,チャネルロドプシンと呼ばれるタンパク質は,特定の波長の光を受容することで濃度勾配にしたがってイオンを受動的に輸送するチャネルとして機能することが知られている。チャネルロドプシンを発現させた神経細胞では,外部から光を照射することでその神経活動の活性,あるいは抑制を引き起こすことができる。

この技術は光遺伝学と呼ばれており,チャネルロドプシンはその主要なツールとして利用されている。光遺伝学で使用されているチャネルロドプシンの多くは480nm周辺の青色光に吸収波長ピークを持つが,この波長の光は組織透過性が低く,また散乱などによる影響も大きいことから,脳の深い位置の神経細胞を活性化するためには,手術によってファイバーを埋め込んだりするなどの工夫が必要という問題もある。

今回,東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授らの研究グループはX線結晶構造解析の手法を用いて,最も長波長である590nmに吸収波長ピークを持つチャネルロドプシンであるChrimsonの立体構造を決定することに成功した。

構造情報をもとにしたアミノ酸の変異体解析の結果から,Chrimsonの長波長シフトは,1)レチナールのシッフ塩基周辺のアミノ酸のチャージ状態の違い,2)レチナール周辺の親水性アミノ酸分布の偏り,3)レチナール周辺の空間の狭さ,という3つの要素によって実現していることがわかった。

また,これらの知見をもとに,親水性アミノ酸の偏りをさらに強めるような変異体を作成することで,野生型のChrimsonよりもさらに吸収波長が長波長にシフトした変異体を作製することに成功し,この変異体をChrimsonSA(S169A,Superred-shiftedandAccelerated)と名付けた。

さらに,ChrimsonSAを発現させた神経細胞は短波長側の光では活性化しづらく,長波長の光によって選択的に活性化を引き起こせることから,光遺伝学において有用なツールとして用いることができることを示した。

今回の成果は光受容タンパク質の吸収波長シフトに関する基本的理解につながるもの。また,長波長の光は組織透過性が高いことから,改変型Chrimsonは組織のより深い位置にある神経細胞を活性化するような用途において役立つことが期待されるとしている。

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