理研,パルス電流を用いた「超伝導状態」の生成・消去に成功

理化学研究所(理研)の研究チームは,パルス電流(短時間かつ一時的な電流)を用いた「超伝導状態」の生成・消去に成功した(ニュースリリース)。

超伝導状態を示す新物質の探索は100年以上にわたり行なわれてきたが,その際に主に用いられてきた方法は,対象物質の化学組成や圧力を変化させることだった。

加熱した鉄鋼を徐冷すると比較的柔らかい鉄鋼が生成されるが,急冷すると硬い鉄鋼が生成される。鉄鋼は鉄原子と炭素原子で構成されているが,組成・圧力・温度などの条件が決まると,鉄鋼中の各原子の最も安定な配置はただ一つに定まる。したがって平衡熱力学的には鉄鋼の硬さは,徐冷や急冷といった冷却の方法によらないと予測される。

しかし実際には,急冷下で生成された硬い鉄鋼中の各原子は,最も安定な配置から外れた位置にあり,平衡熱力学の原理から予測される状態とは異なる。

研究グループは,このような急冷による状態制御を,固体中の電子集団に適用したら,平衡熱力学の枠組みを超えた「超伝導生成法」を実現できるのではないかと考え,急冷による超伝導状態の新しい生成法を実証する物質を選定するため,低温では電子が規則正しく配列した「競合秩序」と呼ばれる状態(超伝導の発現を阻害している秩序状態)になるが,圧力や化学組成の変化によって競合秩序がなくなり,超伝導状態が発現されることと,ある温度域で競合秩序が急激に形成されることの,二つの基準を設定した。

次に,これらの基準を満たす物質の一例として,IrTe2を用いて,極低温で実験を行なった。IrTe2の薄片試料にパルス電流を加えたところ,試料温度は瞬時に2.4K(約-270.8℃)から400K(約126.8℃)まで上昇した。そしてパルス電流が終了すると,試料の熱が薄片試料を乗せた基板に奪われ,秒速1,000万Kを超える速度で元の2.4Kまで冷却されることが分かった。

また,試料の電気抵抗率の値は,パルス電流を加える前は有限だったが,加えた後にはゼロになること,すなわち超伝導状態が生成されたことが分かった。

次に急冷により超伝導状態を生成した後,急冷用のパルス電流よりも低い強度(電流)と長い時間のパルス電流を加え,試料温度を50K(約-223.2℃)から280K(約6.8℃)の間で保つと,競合秩序が形成された。パルス電流の終了後は2.4Kまで試料が冷却されるが,電気抵抗率が有限の値を示し,競合秩序の形成により超伝導状態が消去されたことが分かった。

研究グループは,今回不揮発性メモリ(超伝導不揮発メモリ)機能が実証されたことにより,新たな超伝導物質の探索や書き換え可能な量子コンピュータの回路素子の実現につながると期待している。

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