NTT,R&Dフォーラム2018(秋)を開催

シースルーディスプレー受付システム

日本電信電話(NTT)は,11月29日,30日の2日間,NTT武蔵野研究開発センタ(東京都三鷹市)において,研究成果を発表するR&Dフォーラム2018(秋)を開催し,様々な技術展示および講演・セッションを行なった。

今回の展示テーマは「Transforming Your Digital Visions into Reality」。AIやIoTといったキーワードをもとに,近未来の情報化社会を提案する内容で,展示内容は「メディア&UI」,「AI」,「IoT」,「セキュリティ」,「ネットワーク」,「基礎研究」の5つに分類された。ここでは編集部が注目した研究内容を紹介する。

実際に製作したLEAPレーザー

基礎研究では,シリコン上にレーザーを集積するLEAP(Lambda-scale Embedded Active-region Photonic Crystal Laser)レーザーの進捗が展示された。これは他のデバイスと共に光回路をシリコン上に集積することで,チップ間,チップ内通信を目指す超小型・超低消費電力光源となるもの。

一般的に,シリコン基板上にInP系半導体レーザーをエピタキシャル成長によって作ることは,格子定数の違いや熱膨張の違いから難しいとされている。NTTではシリコン基板と,別にエピタキシャル成長によって作成したInP基板を貼り付け,そこにフォトニック結晶レーザー構造を作り込むことによりこの問題がを解決しようとしている。

LEAPレーザーの周期構造

具体的にはシリコン基板表面をサブナノレベルで研磨し,InP基板とプラズマを用いた共有結合により貼り合わせる。これにより,ブレードを差し込んで剥離しない強度の接合が可能となった。ここにリソグラフィを用いてフォトニック結晶構造を作り込むことでレーザーを作成する。

作成したレーザーは波長1.55μmをしきい値0.4μWレベルで発振する。この電流値はワールドレコードだとしている。光閉じ込めのため現在はシリコンとInPの間にSiO2の層があり,これが熱抵抗となる問題があるものの解決策はあるといい,信頼性や量産性を確かめながら,5年後の実用化を目指したいとしている。

光メタサーフェース

開発中の光学素子として展示された「光メタサーフェース」は,誘電体を用いたメタマテリアル。具体的にはガラス上に厚さ1μmの窒化シリコン膜を形成し,リソグラフィによって数百nm四方の角柱を多数形成する。その際,角柱のサイズや間隔によって光物性を制御し,様々な光機能を付与することができる。

例えば,色成分を分解することができるので,現在の一般的なイメージセンサーのようにカラーフィルタを用いることなくRGBの情報を取得できる。そのため光の取り込み効率が大幅に向上することが期待できる。NTTでは実証実験において,3.57倍明るい画像を得られること確認した。今後,さらなる微細化で光取り込みが困難になる超高精細イメージセンサーや,自動車のナイトビジョンにも期待ができる技術だ。

回転させると偏光が変わる

さらに,偏光情報を分離・可視化することも可能。しかも1μmサイズで作製できるので,イメージセンサーと集積化すれば,各画素ごとに異なる偏光情報を取り込むこともできる。つまり,様々な偏光情報を一度に取得できるので,反射光の除去や応力の可視化,撮影した物体のコントラスト化など,イメージセンサーによる様々な「見える化」が可能になるとしている。

レーザーを網の目状に配置

NTTではこれまで通信で培ったレーザー技術の異分野での展開を積極的に進めており,その一つとして,エンジンの燃焼ガスの濃度,温度,圧力センサーとしての活用を提案している。これはエンジンのシリンダーヘッドに取り付けるセンサーで,32本のレーザーを平面上に網の目のように照射することでセンシングを行なう。

使用するのは出力10mW,2μm帯の分布反射型レーザー。この波長帯は水の吸収が少なく二酸化炭素に適する一方,波長可変域が広いので複数の吸収線を測定できる。このレーザーを32本のファイバーに分割し,対向する部分に受光センサーを置いてセンシングすることで,平面におけるガスの濃度分布を可視化した。

測定画面

このとき,二酸化炭素の測定で現れる2本の吸収線の吸収量の比率とガスの温度,および吸収線の幅とガスの圧力に相関があることを発見しており,ガス濃度と共に温度と圧力を同時に計測することに応用した。

これまでシリンダー内の燃焼状態は,シリンダーに開けた穴からセンサーを差し込み,ピンポイントで取得していたが,この技術で燃焼状態を二次元で可視化することができる。レーザーは高速動作するので,マイクロ秒の時間分解能で観測が可能。レーザーの波長を変えることでアンモニアなど,他の種類のガスもセンシングもできるという。

背景が透けて見える

先日発表のあった「透ける電池」の展示もされた。これは従来の電池の材料と構造を見直すことで25%の光透過率を持つ電池で,放電容量は0.03mAhと小さいが,電圧は1.7Vを実現している。一般的な二次電池にも用いられる材料を使ったものであり,量産を確立すれば安価に供給できるとしている。

NTTでは将来技術として光によるニューラルネットワークの構築も試みている。これは光干渉を用いて小脳を模擬した情報処理を行なう,光リザーバコンピューティング(RC)と呼ばれる技術で,現在研究されているニューラルネットワークで電気回路で構成されるリザーバ層を光に置き換えたもの。

高速で処理ができるため,1万文字の手書き文字の認識において電気回路が20秒以上かかるところを約100倍の200ミリ秒で処理することができる。また,光を用いることで消費電力も下げられる。ただし,この手法は深層学習と比べて正答率が低いため,高速で「大雑把な」AIとしての応用を模索しているという。

光RCチップ

現在のところ原理検証の段階だが,今後はすでに通信で用いられている光導波路の技術を用いて,多チャンネルの光RCチップ化を目指すとともに,入出力も光化して集積化した光RCコンピューターを実現し,ノイズ除去や歪み補正,物体認識といった様々なシーンでの応用を目指したいとしている。

NTTではARやVRといった拡張現実や超高臨場感を実現するディスプレー技術にも力を入れている。今回,裸眼3Dディスプレーとして2つを展示した。1つは丸テーブル上に立体像が浮かぶタイプで情報通信研究機構(NICT)も開発を進めているタイプで,多数のプロジェクターからの映像を光学素子を介し,観察方向に応じたそれぞれ異なる見え方を再現することで立体視を実現する。

思わず触れたくなる立体感がある

この技術は見る角度を変えると映像も追従して見える角度が変わるという特長がある。しかし,物体が見える角度はプロジェクターの数に依存するため,よりリアルな立体像を実現するためには多数のプロジェクターが必要となり,NICTでは最大300台を用意するなど,装置が大掛かりになるという欠点があった。

今回NTTは,隣あう映像と映像を滑らかにブレンディングすることで,実際には投影していない角度の映像を観察者に「錯視」させ,プロジェクターの数を減らしながらもよりリアルな立体像を投影する技術を開発した。これにより,今回NICTの1/5となる60台のプロジェクターでの立体視を可能にしたほか,鏡とフレネルレンズによるスクリーンも大型化し,こちらはNICTの6倍となる直径120cmのテーブル型スクリーンを実現した。

質感の高い3D表示

もう一つの3Dディスプレーは,ライトフィールド生成技術によるもの。バックライトとLCDパネルの間に光学バリアと呼ぶスリットを設けることで,複数の支店への光線を混合し,中間視点への光線を生成する。光線を再現することで,質感や実在感の高い表示を実現できる。

視覚の特性を利用してディスプレー内部で光線の補完処理を光学的に行なうので,画素を効率的に利用できるほか,高分解能で光線を再現できるのが特長だとするが,やはり立体像の精細度はパネルの解像度に依存する。今回4Kパネルで5視点を再現したので,実際の解像度は4Kの1/5×2(両目)となった。また,視野角が±6°と狭いことから,今回は一人ずつ体験する「おひとり様用」ディスプレーとして展示した。

今回のR&Dフォーラムは,NTTが考える未来のICT社会を具体的に提案するものであった。さらにNTTは今回,次世代技術の基礎研究を行なう海外研究所をシリコンバレーに設立,暗号情報理論研究所と生体情報処理研究所を設置し,グローバルな競争力を強化すると発表した。インフラとしての通信のさらに先を見据える戦略であり,これからもその方向性が注目される。

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