東工大,水素結合による高分子トランジスタを開発

東京工業大学は,世界最高レベルの電子移動度7.16cm2V-1s-1を示し,かつ電子輸送型(n型)のみで作動する高分子トランジスタの開発に成功した(ニュースリリース)。

アモルファスシリコンの移動度を超える高い移動度を実現することが,有機半導体高分子を実用化する際に一つの目安になるとされている。正孔のみを輸送する有機半導体高分子では10cm2V-1s-1を超える非常に高い移動度が達成されているが,電子のみを輸送する有機半導体高分子では隣接モノマー間の立体障害のため十分な結晶性薄膜を形成できていなかった。そのため,高い平面性を有する電子吸引性モノマーからなる高分子の合理的な設計指針が求められていた。

有機半導体高分子は平面性が高い主鎖構造を得ることが困難だった。特に,電子輸送性の有機半導体高分子を得るためには,カルボニル基やニトリル基などの電子吸引性基が置換したモノマーを使用する必要があるが,それらの置換基はモノマー間の大きな立体障害となることが問題となっていた。

今回の研究では,ベンゾチアジアゾールとナフタレンジイミドという非常に強い電子吸引性モノマーを選択し,電子のみを輸送する有機半導体高分子の開発を目指した。モノマー間の距離を効果的に離し,かつ高い平面性を確保するために,ビニレンスペーサーを新たに導入した。

ビニレンに置換した水素原子が,ベンゾチアジアゾールに置換したフッ素原子やナフタレンジイミドのカルボニル酸素原子と水素結合することにより,立体障害を回避して比較的高い平面性を得ることに成功した。

二量体モデルのDFT計算では,ビニレンスペーサーを導入することによって隣接モノマー間のねじれ角が大きく減少することが明らかとなった。また,高分子薄膜のX線回折測定では,π-π相互作用に由来する分子鎖間の距離が非常に小さく,結晶性の大幅な向上が示唆された。

有機トランジスタのシリコン基板上にアルキル単分子膜を用いた場合は若干の正孔輸送が観測される場合があったが,アミノアルキル単分子膜を用いると電子のみが流れ,高分子トランジスタとしては世界最高レベルの電子移動度7.16cm2V-1s-1を達成した。

通常,n型の有機トランジスタは大気安定性に問題がある場合が多いが,フッ素が置換したベンゾチアジアゾールから成る高分子トランジスタは1ヵ月大気下に保存しても明確な劣化は見られず,電圧の繰り返し印加に対しても優れた安定性を示した。

今回の成果は,電子のみを輸送する高移動度半導体高分子の明確な設計指針を与え,他のモノマー構造にも適用できる汎用性を有すもの。n型の有機半導体として高い安定性も兼ね備えているため,正孔輸送型半導体高分子と組み合わせ,全有機高分子型のデジタル回路や熱電変換素子,太陽電池などに応用できるとしている。

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