東大,透明化で腎臓内部の3次元構造を可視化

東京大学と東海大学は,臓器透明化手法「CUBIC」と3次元免疫染色を組み合わせ,腎臓内部の交感神経が動脈周囲を取り巻くように走行する様子を世界で初めて可視化した(ニュースリリース)。

腎臓は血液をろ過して尿を生成することで老廃物を排出し,体内の環境を一定に保つ働きをしている。腎臓の複雑な動きを制御するために交感神経系が重要な働きを担っていると考えられてきたが,これまで腎臓における交感神経の3次元構造を把握することは困難だった。

今回,研究グループは,腎臓内の交感神経の3次元構造を把握するために,近年開発が進んでいる「臓器透明化」を利用した。CUBICを用いてマウス腎臓を透明化し,透明化した臓器を薄切せずに丸ごと染色する3次元免疫染色によって交感神経に特異的なマーカーであるチロシン水酸化酵素を標識した。

これを,シート状のレーザーを左右から照射し,サンプル内の蛍光シグナルを上部に設置されているレンズで検出することで高速3次元撮影を行なう,ライトシート顕微鏡を用いて腎臓全体の観察を行なった。

その結果,交感神経は動脈の周囲を取り巻くように走行していることが明らかとなり,交感神経が動脈の収縮を制御していることが裏付けられた。また,腎臓の虚血再灌流障害(腎臓の血流が一時的に急激に低下することによる障害:急性腎障害)を起こしてから10日後の腎臓を透明化して観察したところ,交感神経マーカーで標識される領域が健康な腎臓と比べて著明に減少していた。

交感神経から分泌される神経伝達物質であるノルアドレナリンの量を測定したところ,虚血再灌流障害10日後の時点の腎組織内では著明に低下していたことから,交感神経の機能異常が生じていることが裏付けられた。

さらに,経時的な変化を観察したところ,交感神経マーカーで標識される領域は障害直後に最も減少し,時間と共に徐々に回復するものの,28日後でも完全には回復しておらず,交感神経の機能異常が長期間にわたって遷延していることがわかった。

急性腎障害が生じた後,徐々に線維化を中心とする慢性腎臓病に移行していくことが知られているが,今回見出した遷延する腎交感神経の機能異常が病態に影響している可能性もあり,今後の研究につながる成果という。

さらに研究グループは,交感神経・動脈だけでなく,腎臓の他構造(集合管・近位尿細管・糸球体)を,それぞれ3次元免疫染色を用いて標識することによって臓器全体で可視化することにも成功した。このCUBICと3次元免疫染色を組み合わせた観察法は,今までにない包括的な視点を提供することで,今後の腎臓病研究において強力なツールとなることが期待できるとしている。

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