NICT,光回路を削減したコヒーレント受信方式を開発

情報通信研究機構(NICT)は,独自に開発した高速集積型受光素子と位相回復信号処理アルゴリズムを用いた,新たな光コヒーレント受信方式の実証実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

現在,通信事業者等の長距離系光ファイバ通信網では,光の強度と位相に情報を乗せる光コヒーレント伝送により,100Gb/sを超える大容量通信を実現している。さらに,FTTHなど身近な光アクセス網でも光コヒーレント伝送の導入が検討されている。

しかし,光信号の受信に用いられる受光素子は,光の強さ(強度情報)は検出できるが,位相は検出できないため,光コヒーレント方式信号の受信には,高精度な光源や複雑で精密な光回路が必要となる。そのため,受信機の小型化が求められる光アクセス網では,光コヒーレント伝送の導入が進んでいなかった。

今回,新たに開発した位相回復信号処理アルゴリズムと2017年に開発した超小型かつ高速な二次元集積型受光素子を組み合わせることで,受信機内の光回路を大幅に削減し,シンプルにする「位相回復型コヒーレント受信方式」を提案し,その実証実験に世界で初めて成功した。

この方式の構成要素は,以下のとおり。
・受信した光の位相を二次元的な強度パターンに変換する散乱体
・散乱体で変換された強度パターンを一括受光する二次元集積型受光素子
・強度パターンから光の位相を逆算する位相回復信号処理アルゴリズム

位相回復技術は天文などの物理学の分野で知られているが,計算量の大きさなどから,高速光通信へは応用されてこなかった。今回,新しく開発したアルゴリズムでは,光位相変調信号の限られた位相状態に着目し,その計算量を大幅に削減することがでた。実験では,40Gb/s相当の偏波多重QPSK信号を伝送し,位相回復型コヒーレント受信に成功したという。

研究グループは今後,16QAMといった,より複雑な波形を持つ光信号の復調や,より効率的な散乱体の設計など,信号処理技術・デバイス技術の両面から,位相回復型コヒーレント受信方式の実用性の向上に取り組むとしている。

今回開発したコヒーレント受信方式は,光ファイバ通信のみならず,高精度な光測距や大容量の空間光無線通信など,超小型化が求められる身近な光ICTシステムへの多様な応用も期待されるとしている。

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