分子研ら,分子モーターでスピンを光と熱で制御

分子科学研究所,奈良先端科学技術大学院大学,タイのVISTECの研究グループは,キラル分子モーターの回転運動を利用して,スピン偏極電流におけるスピンの向きを光照射または熱処理によって制御することに成功した(ニュースリリース)。

スピントロニクスは現在盛んに研究されているが,スピントロニクスデバイスには通常,スピンの向き(上向きスピンまたは下向きスピン)を制御するための強磁性材料や電磁石などを用いた外部磁場が不可欠。

これに対し,レアメタルを含まない有機分子によりスピントロニクスデバイスを作ろうという試みもあるが,一般的に強い磁気的性質を持たない有機物によってスピンの向きの制御を実現するのは困難と考えられていた。

今回,研究グループは,Chiral-induced spin selectivity効果と呼ばれるキラル分子によって電子がスピン偏極を受ける現象を利用し,キラル分子モーターを組み込んだスピントロニクスデバイスの可能性を着想した。キラル分子モーターは,光照射と熱処理によって一方向のみに回転運動する分子マシンとして知られる分子だが,この回転運動には1回転につき4回のキラリティの反転が伴うことも知られている。

研究グループは,このキラル分子モーターを薄膜化し,スピンバルブ型のデバイスを作製した。このデバイスでは,キラル分子モーターの薄膜を通過する際に生成したスピンの向きを,ニッケル電極の磁化方向に依存する磁気抵抗として検出することができる。

得られた磁気抵抗は,光照射と熱処理によってそれぞれ符号が反転しており,スピンの向きの反転が実験的に確かめられた。つまり,作製したデバイスでは,光照射と熱処理によって分子モーターの回転運動を誘起することにより,スピンの向きを自在にスイッチさせることができることがわかったという。

研究グループは,今回の研究成果は,強磁性体や外部磁場を用いずにキラル分子モーターと呼ばれる有機分子の運動のみによってスピンの向きを制御できることを示したもので,有機分子による新たなスピントロニクスデバイスの実現に繋がるものとしている。

その他関連ニュース

  • 理科大,正方カゴメ格子に量子スピン液体を観測 2020年07月10日
  • 広島大ら,相変化材料に質量ゼロの電子を発見 2020年07月10日
  • 東大ら,磁性体内の四重極磁石の空間分布を可視化 2020年07月10日
  • 東大,キラル有機分子を炭素から光を用いて合成 2020年07月06日
  • 東北大,電子スピン歳差運動の回転方向を観測 2020年07月03日
  • 東北大ら,スピンのねじれによる電子の変位を発見 2020年07月02日
  • 阪大ら,最高性能の半導体スピン伝導素子を実証 2020年06月22日
  • 東北大ら,長寿命スピンの結晶方向を発見 2020年06月17日