名大ら,食物繊維を使い半導体型CNTを精製

名古屋大学と林原の研究グループは,林原が開発した新規の水溶性食物繊維であるイソマルトデキストリンを用いた水系2相抽出法により,半導体型カーボンナノチューブ(CNT)を精製することに成功した(ニュースリリース)。

次世代エレクトロニクス材料として注目されるCNTは,側面構造の違いによって,半導体型・金属型といった異なる電気的な性質を示すことが知られている。特に,半導体型CNTについてはトランジスタのチャネル材料として利用することで,大面積かつフレキシブルな薄膜トランジスタ(TFT)の作製が可能になる。

しかし,CNTは半導体型と金属型が2:1の割合で混在して合成されるため,高性能なトランジスタの材料として用いるには,半導体型CNTだけを高純度かつ効率的に分離・精製する技術が不可欠となる。これまでさまざまな分離技術が提案されてきたが,大規模化に向けては,特にコスト面が大きな課題となっていた。

今回の研究では,グルコースのみからなる多糖類の一種であるデキストランが持つα-1,6-グルコシド結合と呼ばれる化学構造に着目し,同じ結合を多く持つ水溶性の食物繊維であるイソマルトデキストリンを用いる水系2相抽出(ATP)法によって,半導体型CNTを高純度で精製した。

このATP法ではイソマルトデキストリンとポリエチレングリコールの高濃度水溶液を使用し,不要な金属型CNTを下層のイソマルトデキストリン相に分配することによって,目的とする半導体型CNTを上層のポリエチレングリコール相に高純度で抽出することができる。

吸収スペクトル及びラマンスペクトルから,少なくとも半導体CNTの純度は98%以上と見積もることができ,TFTのチャネル材料として利用する上で,十分に高純度であることがわかった。また,異なる分子量および構造をもつイソマルトデキストリンや,関連する構造を持つ別の多糖を用いた分離実験において,連続するα-1,6-グルコシド結合の存在が半導体CNT分離の鍵であることを突き止めたという。

今回の技術によって得られた半導体型CNTの溶液をそのまま使って,TFT用の薄膜を作製することが可能。実際に作製したTFTを評価したところ,高いon/off比を示すとともに,優れた移動度が得られた。特に,電流密度については,世界トップレベルの大きな値を示したという。また,半導体型CNTを用いているチャネル間の距離を変化させても,良好な均一性を持つデバイス性能が確認されている。

研究グループは,今回開発した分離手法は従来の手法と比べ,半導体型カーボンナノチューブを安価に分離できることに加え,大型化も容易であることから,今後の産業応用へ繋がっていくことが期待できるとしている。

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