兵県大ら,X線で金属化した酸素の電子変化を解明

兵庫県立大学と理化学研究所は,台湾の國家同歩輻射研究中心,高輝度光科学研究センター,愛媛大学と共同で,100万気圧で酸素が金属化することに伴う電子状態の変化を,X線ラマン散乱測定と電子状態計算により解明した(ニュースリリース)。

O2分子は2つの不対電子のスピンがそろっているため磁石の性質を持っており,低温高圧で安定となる液体酸素や固体酸素は磁気的な性質を持つ。

約10万気圧以上ではO8分子からなるイプシロン相が安定になるが,その際に不対電子が対を作ると考えられ,磁性を示さなくなる。さらに圧力をかけると,約100万気圧で酸素は金属となる。

物質が絶縁体から金属になるときには見た目が大きく変化し,それに伴い物質中の電子状態は変化する。これまではコンピュータを用いた電子状態計算により議論されていたが,金属状態の酸素がどのような結晶構造を取るかもいまだ明らかではなかった。

研究グループは,液体酸素を加圧することで固体酸素イプシロン相を合成した。その際に,単結晶ダイヤモンドやNPD(ナノ多結晶ダイヤモンド)を用いた高圧発生装置を使用した。このようにして合成・加圧された試料に対し,酸素のX線ラマン散乱測定および発生圧力と結晶構造の確認をSPring-8にて行なった。

X線ラマン散乱スペクトルの形状の圧力変化を調べると,圧力と共に単調に増加していたシグナル(π*バンドおよびσ*バンド)のエネルギーが,酸素が金属化する圧力で減少方向へと変化することがわかった。

さらに加圧するとシグナルの変化は再び増加方向へと変化した。これは酸素の金属転移により電子状態エネルギーが低下することを表している。

π*バンドの圧力変化は電子状態計算でも再現され,価電子バンドと伝導バンドのギャップが閉じることが実験で観測されたことになる。また金属転移には圧力の幅があることが確認された。しかし,σ*バンドの変化は計算で再現されなかった。

また,π*バンドの形状の圧力変化からは,30万気圧を過ぎた圧力でイプシロン相に何らかの変化が生じていることもわかった。この変化は電子状態計算でも再現され,絶縁体だった酸素が半金属状態に変化した可能性が示唆された。

10万気圧から100万気圧という広い圧力範囲で安定だと考えられていたイプシロン相は単一の状態ではなかったという。

研究グループは,今回の研究成果により,金属酸素の結晶構造は未解決の問題であることがはっきりしたとしている。

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