東北大ら,常磁性絶縁体でスピン流を観測

東北大学と東京大学の研究グループは,スピントロニクス材料として利用することが難しいと考えられていた常磁性絶縁体ガドリニウムガリウムガーネットが,スピン流を伝播する有用な材料になりうることを実証した(ニュースリリース)。

スピンの向きがバラバラな状態を常磁性と呼ぶ。常磁性の物質中では磁気秩序によるスピン流輸送は期待できない。特に電気を通さない常磁性絶縁体は,伝導電子も磁気秩序も活用できないため長距離にスピン流を流すことは不可能というのがスピントロニクスの常識だった。

今回の研究では,常磁性絶縁体であっても,物質内の微弱な原子磁石の間の相互作用を利用することによってスピン流を長距離に流すことができ,しかも同じ温度で強磁性体を用いた場合よりおよそ8倍効率的に流せることを発見した。

原子磁石間の相互作用とは,物質中の原子が磁石のようにS極とN極を持ち,それが互いに同じ極だと反発し,違う極だと引き合う作用のことを意味する。

今回の研究では,常磁性絶縁体ガドリニウムガリウムガーネットGd3Ga5O12(GGG)という物質に注目。GGGは常磁性絶縁体で,物質内のスピンの力が大きいことが知られている。そのため外部磁場によって,スピンの方向を一部揃えることで,微弱ながら原子磁石の間の相互作用が期待できる。

実験では,GGG上に2つの白金(Pt)細線を取り付けた。一方の細線に電流を流し,スピンホール効果通じてGGGにスピン流を注入し,もう一方の細線には電圧計を取り付けた(出力細線)。もし,GGGの中をスピン流が伝播して出力細線に到達すると,Pt中の逆スピンホール効果による電圧が生じることが期待できる。

この出力細線の電圧の磁場依存性をさまざまな温度で調べたところ,常磁性のGGGで低温(5K)において磁場をかけると,明瞭な起電力信号を観測した。信号を解析すると,GGG中では従来にない高効率かつ長距離に渡ってスピン伝導が起きていることが明らかになった。

さらに,GGG中のスピン流が100Kという比較的高い温度まで長距離に渡って伝播していることがわかった。これはGGGが完全な常磁性体であってもスピン流を伝播していることを示している。

GGGは,高温であってもスピンが外部磁場によって一部揃うことができるため,スピン同士に微弱な原子磁石の間の相互作用が生じ,スピン流が伝播できると考えられるという。

研究グループは,常磁性絶縁体も有力なスピントロニクス材料に利用できる道が拓かれたとし,今後新たなスピントロニクス材料の開発が加速する可能性があるとしている。

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