北大,光/熱の酸化特性分子スイッチを創出

著者: higa

北海道大学の研究グループは,光/熱で酸化特性の完全制御が可能な分子スイッチの創出に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

有機化合物はの化学結合は,物質を創る最も基本的な要素であり,その長さや二つの結合がなす角度は基本的に決まった値を示す。例えば,炭素=炭素二重結合は平面構造をとることが知られている一方,大きな置換基が複数置換することで折れ曲がり構造やねじれ構造といった,通常とは異なる構造をとることも報告されている。

研究グループは,かさの大きな置換基が複数置換することで,折れ曲がり構造をとる分子を新たに設計した。設計した炭化水素は,歪んだ七員環構造を含むことで上下の骨格が外側を向いたアンチ,アンチ(AA)型と一方の骨格が内側を向いたシン,アンチ(SA)型の両方が安定に存在するようにデザインされている。

両者は安定な異性体としてそれぞれ合成され,光によってAA体からSA体へ,熱によってSA体からAA体へと,完全に相互変換可能なことを見出した。

さらに詳細な調査の結果,AA体よりもSA体の方が酸化されやすいことが明らかとなった。これにより,光により構造が変化した分子(SA体)のみを酸化してジカチオン型色素へと導くことが可能となり,前例のない高度な制御性を実現した。さらに,AA体とSA体が混合物として存在した場合でも,SA体のみをジカチオン型色素へと酸化し,AA体をそのまま回収することが可能だという。

今回の研究によって,光によって酸化特性を“オン”へ,そして熱により酸化特性を“オフ”へ制御可能な応答性分子の構築に成功した。この成果は複数の刺激を組み合わせることによって高度な制御を可能にし,新たな機能性材料の創出につながるものと考えられるという。

また,光と酸化によって“書き込み”をした後であっても,還元と熱によって“消去”することが可能であり,実際の応用に向けた研究展開が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大,光の偏光面が回転する電場誘起旋光性を巨大化

    東京大学の研究グループは,電場印加に比例して光の旋光性が誘起,制御される現象「電場誘起旋光性(linear electrogyration)」を巨大化することに成功した(ニュースリリース)。 電場の印加によって試料を透過…

    2025.05.16
  • 東京科学大,タンパク質の協働を制御して分子設計

    東京科学大学と東京大学は,蛍光分子等のスイッチ分子の結合をトリガーとして,タンパク質の動きを協働的に制御する分子設計技術「分子ドミノ」を開発した(ニュースリリース)。 タンパク質デザインが2024年のノーベル化学賞を受賞…

    2025.03.03
  • 理研,SPring-8でタンパク質構造を詳細に可視化

    理化学研究所(理研)は,大型放射光施設「SPring-8」を活用し,タンパク質のX線結晶構造解析において高い解像度と精度を実現する新たなデータ収集・統合方法を開発した(ニュースリリース)。 SPring-8の放射光ビーム…

    2025.01.20
  • 公大,効率化したフローとAIで新規有機半導体を合成

    大阪公立大学の研究グループは,機械学習モデルを用いて,窒素や硫黄を導入した7種類の新たな有機半導体分子を設計し,合成,評価を行なった(ニュースリリース)。 有機半導体材料において,優れた特性を得るためには,優れた結晶構造…

    2024.10.01
  • 豊技大ら,光合成を調節する光スイッチの仕組を解明

    豊橋技術科学大学,東京薬科大学,佐賀大学,金沢大学,大阪大学,自治医科大学,東京都立大学は,届く光に応じて自らの構造を変えることで吸収する波長を切り替えるスイッチとしてはたらくタンパク質であるRcaEに着目し,その緑色光…

    2024.06.13
  • 理研ら,XFELと電顕で低分子有機化合物の構造解析

    理化学研究所(理研),東北大学,高輝度光科学研究センターは,X線自由電子レーザー(XFEL)を用いて,低分子有機化合物の微小結晶から水素原子を含む詳しい構造解析が可能なことを明らかにし,XFELと電子顕微鏡の相補利用の有…

    2023.03.22
  • 理科大ら,新たな炭素ナノリングの合成法を確立

    東京理科大学,東京工業大学,京都大学は,以前に研究グループが発見した環状有機金錯体を経由するシクロパラフェニレン(CPP)の合成法について,環状有機金錯体の生成機構を明らかにする過程で,その環状錯体化には金-炭素結合の迅…

    2022.08.09
  • JASRIら,放射光の波長で多元合金の構造を区別

    高輝度光科学研究センター(JASRI),大阪大学,名古屋大学,物質・材料研究機構は,スピントロニクス材料として期待されるスピンギャップレス半導体であるマンガン・コバルト・アルミニウム合金薄膜(三元系ホイスラー合金薄膜)を…

    2022.06.15

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア