NTTら,超高速・超省エネの全光スイッチを開発


NTTと東京工業大学は,グラフェンと組み合わせた光ナノ導波路にプラズモニクスを応用することで,超高速かつ超低消費電力で動作する全光スイッチの開発に成功した。fs領域の応答時間とfj領域の消費エネルギーの動作を両立する光スイッチの実現は世界初だという。

光と電気で光路を操作する光スイッチの動作時間は電気的遅延により10ps程度が限界とされている。一方,光路を光で操作する全光スイッチはこの制限が無く,より高速な動作が可能だとして,これまでも様々な構成のものが報告されてきた。

各研究の動作速度と消費エネルギー

しかし,超高速領域でのスイッチングは消費エネルギーも大きいため,今後,光スイッチの集積化を考えた場合,消費エネルギーを下げることは必須となる。しかし,これまでの光スイッチには動作速度と消費電力の間にトレードオフの関係があった。

NTTでは2010年,ナノフォトニクスによる光素子を実現してこのトレードオフを破り,1bitあたり1fjで動作する低消費エネルギーの全光スイッチを実現している。一方で,この素子の動作速度は電気+光によるスイッチでも到達可能な領域であった。

しかし,フォトニクス結晶を用いた全光スイッチはそれ以上の高速化が難しく,研究グループは今回,全光スイッチでしか到達できない超高速領域と低消費電力動作の両立を目指し,新たな切り口の全光スイッチを実現した。

スイッチの概念図と電子顕微鏡像

開発した新たな光スイッチは,金の間に空気のコアを用いたプラズモニック導波路の上にグラフェンを張り付けた構造となっている。この導波路に,信号光とスイッチングを行なう制御光の2つの光をシリコン導波路を介して導入する。

このとき,制御光を信号光より先に入れると導波路の光吸収が飽和して信号光は抜けられるが,制御光を入れない場合,信号光は導波路内で吸収されてしまい抜けることができない。このグラフェンによる飽和と吸収を信号光によって制御するのが動作原理となる。

層状物質であるグラフェンは特異なバンド構造により有用な特性を示す。1つ目の特長として,広い波長域で大きな吸収係数がある。単層あたりの吸収は2.3%で,これは一般的な半導体に比べ,1550nmにおいて数十倍の値に相当するという。また,吸収領域は可視から赤外までと広い。

さらに,超高速の非線形光学効果により,上記のスイッチングにおけるグラフェンの飽和と吸収の状態の切り替え時間が10fs~数ps程度と,超高速スイッチングが可能となる。これらの特長からグラフェンは非常に優れた光学材料と言える。

シリコン導波路型とプラズモニック導波路型

ただし,グラフェンの厚さは<1nmと非常に薄く,光と結合させるのが難しい。一般的なシリコンの光導波路の上面にグラフェンを貼付けて光を伝播させる構成(シリコン導波路型)が報告されているが,この構造だと光の分布に対してグラフェンが薄すぎ,光との相互作用が十分でないという問題があった。

そのため研究グループは今回,プラズモニック導波路を導入し,相互作用を大きくすることを狙った。導波路の材料に金を用い,幅と高さを先のシリコン導波路より大幅に小さくして断面積を約1/100としたことで,光を導波路の中心に強く閉じ込めることが可能となる。

シミュレーションの結果,光吸収がシリコン導波路の0.089dB/µmに対してプラズモニック導波路は2.0dB/µmと22倍になり,光素子の短尺化の可能性が示された。さらに光密度が高まることで,グラフェン位置での光強度は310倍にもなり,動作エネルギーの低減に資することも分かった。

プラズモニックモード変換器

こうした優れた性能を持つプラズモニック導波路だが,実用化には伝搬損失が大きいこと,そして波長1550nmの光に対して導波路コアのサイズ(20~30nm)が小さく,シリコン導波路を介した光の導入が困難という問題があった。

これらを克服するため,研究グループではスイッチングを行なうプラズモニック導波路の相互作用部分を極力短くし,他の部分の伝送はシリコンで行なう構造を採用した。さらに,シリコン導波路とプラズモニック導波路の接合部分に,NTTが2016年に開発した楔形のプラズモニックモード変換器を用いた。

この変換器により,高効率(変換効率67%)でプラズモニック導波路に光を導入することに成功した。こうした楔形構造による研究は海外のグループでも試されているが,NTTのような高度な加工技術は持ち合わせていないため,今回のような数値は出せていないという。今回の成果はこの変換器の開発が大きなブレイクスルーとなった。

実際に開発した導波路について特性を調べたところ,シリコン導波路型に比べて約19倍の光吸収の増強を確認した。また,グラフェンを飽和させるのに必要なエネルギーは,同じくシリコン導波路型に対して4桁小さくなることが確認できたという。

スイッチングの実証

次にスイッチング動作時間を確認した。導波路に制御光,信号光の順に入れ,抜けてきた信号光の強度から動作速度を調べたところ,オン状態とオフ状態の切り替えが260fsでできることが分かった。なお,ことのきのスイッチングエネルギーは35fjだった。

この数値は非常に優れており,これまで考案されていた光ファイバーにグラフェンを巻き付けたグラフェン光非線形素子と比して,スイッチング時間で1/10,スイッチングエネルギーで1/104と,大幅な高速化・低消費電力化を確認した。

これにより,世界で初めて動作時間がfs領域で,かつ1bitあたりの消費エネルギーがfj領域という全光スイッチの開発に成功したことが確認できた。また,エネルギーのロスが大きいため,省エネの手段としての研究はあまりなかったというプラズモニクスについて,効果的な使用方法を示したという意味でも意義のある成果だとしている。

課題としては,今回,4µmのプラズモニック導波路長と吸収を高めるために2層のグラフェンを採用したが,原理的にはグラフェンの層数を増やすことで導波路長をさらに短くできるため,最適なパラメーターについては研究の余地がある。また,光の導入損失についても改善の可能性があるという。

研究グループでは今回の成果について,スイッチ以外の素子への応用や,光ニューラルネットワークにおける活性化関数部への応用が期待できるとしている。また,NTTではCMOSの電気回路に光ネットワークを集積したプロセッサの実用化を目指しており,同様に開発を進めている,ナノ光スイッチ,ナノレーザー,ナノ光RAM,ナノ受光器などと共に,チップ内の光ネットワークの基礎技術の一つとして実用化を進めていく。

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