産総研,PIDによる出力低下を透明導電膜で回避

産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,太陽電池の性能が短期間で大幅に低下する電圧誘起劣化(PID)を,太陽電池セル表面を透明導電膜で被覆するだけで十分に抑止できる技術を開発した(ニュースリリース)。

メガワット級の太陽光発電所でのPID発生は,抵抗率の高い封止材や,シリコン組成の大きい窒化シリコン反射防止膜を使用するとある程度抑止されることが,これまで経験的に知られていた。前者の場合は封止材にかかる電界が大きくなり,相対的に反射防止膜にかかる電界が小さくなる。後者の場合は窒化シリコン反射防止膜の導電性が高くなるため,反射防止膜にかかる電界が小さくなると考えられてきた。

そこで研究グループは,反射防止膜にかかる電界を一層小さくする,さらに反射防止膜に電界がかからなくすれば,PIDを抑止できるのではないかと考えた。

通常の結晶シリコン太陽電池セルでは,フィンガー電極が反射防止膜内を貫通してセルのエミッタ層に到達しているので,反射防止膜を透明導電膜で被覆すれば透明導電膜とエミッタ層が同電位になり,両者の間にある反射防止膜は遮蔽され,電界がかからなくなる。つまり,太陽電池セルの反射防止膜を透明導電膜で被覆すれば,PIDの発生を抑止できる可能性があると考えた。

これを実証するため,汎用の単結晶シリコン太陽電池セルの反射防止膜上に,スパッタリング法により透明導電膜であるスズ添加酸化インジウム(ITO)膜を100nmの厚さで形成した。ITO膜で被覆したセルを用いた太陽電池モジュールと被覆していないセルを用いた太陽電池モジュールを作製した。

温度85℃,相対湿度2%以下で,セルに-2000Vの電圧をかける比較的厳しい条件で両モジュールのPID加速試験を実施した。ITO膜で被覆していない太陽電池セルを用いた太陽電池モジュールでは24時間の試験後に出力が初期値の約10%程度にまで低下したのに対し,ITO膜で被覆した太陽電池セルを用いたモジュールでは,1週間の試験後も出力は低下せず,反射防止膜を透明導電膜で被覆する簡便な方法で,PID発生を十分に抑止できることが実証できた。

この加速試験の結果ならびにこれまでに得られた知見から,ITO膜で被覆した太陽電池セルを用いたモジュールは,実環境下においても,PID発生が十分に抑止されることが見込まれるという。

研究グループは今後,開発した技術の実用化を図るために,透明導電膜の膜厚を薄くした場合のPID抑止効果を確認するとともに,スパッタリング法よりも安価なウエットコーティングなどで形成した透明導電膜によるPID抑止効果を確認するとしている。

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