理研,蛍光分子とVRで方向感覚の神経回路に新知見

理化学研究所(理研)の研究グループは,ショウジョウバエを用いて,方向感覚に関わる情報が複数の脳部位にまたがる神経回路のダイナミクスに符号化されていることを発見した(ニュースリリース)。

ハエを用いたこれまでの研究により,「楕円体」と呼ばれる脳部位に投射する神経細胞集団が,頭方位に応じて活動を変化させることが知られていたことから,研究グループは,楕円体に近接する脳部位である「扇状体」に着目した。

カルシウムイメージング法を用いて,過去に開発したハエ用のバーチャルリアリティ(VR)装置でVR空間を飛行中のハエの全ての扇状体細胞の活動をまとめて記録したところ,活動のピークの位置が刻一刻と変化していることを発見した。カルシウムイメージング法とは,カルシウムイオンの濃度に応じて明るさが変化する蛍光分子を用いて,細胞内のカルシウムイオン濃度を計測する方法。

次に扇状体の各細胞種の活動を個別に記録したところ,この活動が扇状体の中で柱状の神経突起(樹状突起・軸索)を持つ「コラム細胞」と呼ばれる神経細胞種(P-F-R細胞など)に由来することを突き止めた。

さらに活動パターンを詳しく解析した結果,活動のピークの位置は頭方位およびハエ自身の旋回運動に応じて,扇状体上を移動することが分かった。以上より,扇状体の頭方位細胞集団に相当するコラム細胞集団は,頭方位と旋回運動の情報を同時に伝えていることが明らかになった。

また,今回発見した扇状体の頭方位細胞が,楕円体の頭方位細胞とどのように関係しているかを検討した。これまでの研究により,楕円体の頭方位細胞も柱状の神経突起を持つコラム細胞(E-PG細胞など)であり,楕円体のどこが強く活動するかにより,頭方位が符号化されていることが知られている。

さらに,扇状体と楕円体のコラム細胞の間には規則的な接続パターンがあると示されていることから,「二つの脳部位の頭方位細胞は協調して機能する」という仮説を立てた。

この仮説を検討するため,扇状体と楕円体の頭方位細胞の活動を同時に記録したところ,扇状体の活動パターンと楕円体の活動パターンが同期して変化することが分かった。この結果は,両脳部位に存在する頭方位細胞が機能的な神経回路を形成していることを示している。

これらの結果から,扇状体と楕円体に投射するコラム細胞集団が神経回路を形成し,同期して活動することで,頭方位や旋回運動の情報が脳内に符号化されていると考えられるという。

今後,方向感覚を担う神経回路が,運動を生成する神経回路にどう影響を与えるかを解析することで,空間知覚をもとに環境を探索する動物の脳内で行なわれている計算が理解できるとしている。

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