東北大ら,X線励起によるSTED現象を発見

東北大学,埼玉医科大学,宇都宮大学らの研究グループは,シンチレーターのひとつであるCe:Lu2SiO5(Ce:LSO)からの発光領域を,可視対物鏡の回折限界スポット径の1/10以下に制限することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

近年,光源技術の発達により,より強い軟X線が使用できるようになったが,2次元検出器で最も高い解像度を持つ半導体検出器のピクセルサイズは 10×10µm2程度で,解像度を高めるためにより小さなピクセルサイズが求められていた。

これを解消する方法のひとつとして,シンチレーターにより軟X線を可視光に変換し,その変換された可視像を顕微鏡により拡大する方法が長年試みられてきた。このときのピクセルサイズは用いる可視光学顕微鏡の空間分解能により制限され,その大きさは「アッベの回折限界」で与えられる。

この「アッベの回折限界」を超えて空間分解能の値を高める方法の一つに誘導放出抑制法(Stimulated Emission
Depletion Method:STED法)があり,既に実用化されている。

今回研究グループは,Ce:LSOからの発光領域を,可視対物鏡の回折限界スポット径の1/10以下に制限することに世界で初めて成功した。

具体的には,光子エネルギー2.58eV(480nm)から1.97eV(630nm)のベクトル光を用いて,紫外光で励起したシンチレーターCe:LSOの蛍光が誘導放出抑制されるかどうかを検証した結果,この波長域で誘導放出抑制されることを確認した。

さらに,励起光を光子エネルギー800eV(1.55nm)の軟X線に変えて照射したところ,同様に可視ベクトル光によってシンチレーターの発光領域が制限されることが確認できた。

これまでX線励起によるSTED現象は知られていなかったが,これらの結果によりX線領域の光を数十nm程度の高い解像度で検出できることが示され,制限された発光点を掃引することにより高い解像度を持つ2次元検出器並びにレントゲン方式の顕微鏡として応用が可能であることが示された。

このシンチレーターは今回の実験の800eV以外にも,30eVから数10keVの光で発光することが分かっているという。したがって,X線領域全般で動作する高い解像度を持つX線検出器として動作することも期待されるとしている。

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