阪大ら,歪みで半導体中のスピン寿命を延長

大阪大学,東京都市大学の研究グループは,次世代の高速半導体チャネル材料として知られるシリコン-ゲルマニウム(SiGe)結晶に歪みが印加されたスピントロニクスデバイス構造を作製することで,SiGe伝導チャネルの電子構造を人為的に変調し,電子スピン寿命を大幅に延長することに成功した(ニュースリリース)。

シリコン-ゲルマニウム(SiGe)は,既に世界最先端のSi-CMOSでも用いられている半導体材料の一つ。このSiGeをはじめとしたIV族半導体チャネル中に電子の「スピン」自由度を電気的に注入し,不揮発メモリ機能を有する半導体スピンデバイスを実現しようという研究が世界中で展開されている。

Siでは2007年に,Geでは2011年にアメリカの研究グループから世界で初めて低温でのスピン伝導の観測が報告され,近年では,フランスやイタリアの研究グループにより光学的手法でこれらのスピン伝導挙動が調べられている。

これに対して今回の研究グループでは,これらとは全く異なる独自の手法で研究に取り組んでおり,強磁性ホイスラー合金という高性能スピントロニクス材料をGeやSiGe上に高品質に作製する技術と原子層不純物ドーピング技術を併用することで,電子デバイス構造における室温スピン伝導を実証してきた。

今回,世界で初めて人為的に結晶歪みを加えたSiGeチャネルを有するスピンデバイス構造を作製し,低温でスピン信号を100倍以上に増大させることに成功した。これは,すでにSiGe伝導層におけるスピン寿命の延長と関係していることが実験的に確かめられている。

この研究成果は,SiGeだけではなくSiやGeなどのIV族半導体チャネル電子デバイス材料におけるスピン寿命の延長効果を示唆するものであり,将来の半導体スピントロニクスデバイスの実現に向けたキーテクノロジーを開発したことに相当する。

Si,Ge,SiGeは,半導体電子デバイス用の材料として広く用いられており,これらの材料上で革新的なスピントロニクス技術が確立されれば,半導体デバイスの高速動作化と低消費電力化を両立することが可能となる。

この成果は,研究グループが有するスピン注入技術と歪み制御技術が世界最高レベルであることを証明するものであり,IV族半導体スピントロニクス素子の実用化に向けた道を切り拓く成果として大きな意義があるとしている。

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