北大,赤外画像で台風の目の中の風を観測

北海道大学の研究グループは,「ひまわり8号」をはじめとする新世代の静止気象衛星で実現した高頻度の観測を利用して,台風の中の雲の動きから風を観測する新しい手法を開発し,目の中の雲の動きから回転の速さの分布を導くことに成功した(ニュースリリース)。

台風の高頻度観測により,台風の中で生起する現象が追えるようになった。例えば,台風の回転速度がわかれば,被害の指標として重要な風速が診断できる。しかし従来の手法では,台風の中心付近や下層の風があまり求まらないことが知られており,高頻度観測を活かす新たな手法が求められていた。

研究は,台風中心を中心とする円周上の角度と時間という2つの座標に沿って,可視光または赤外線の雲画像に対し2次元のフーリエ変換を適用した。それを回転角速度(回転の速さ)の範囲毎に分けて足し合わせて比較し,最も卓越する回転角速度を求める。円の半径,即ち中心からの距離を,一定の間隔で設定して同じことを繰り返すことで,回転角速度の分布を求めることができる。

また,使用した雲がどの高さにあるかは,赤外画像から求めることができる。従来の雲追跡手法は,十分に長く時間があいた少数の画像の比較によって行なわれてきた。今回の手法は,短時間間隔で得られた多数の画像を同時に使うことで安定的に結果が得られることが特長的。

この手法により全体的な回転角速度が求まると,今度はその回転を相殺するように元画像を逆回転させる。すると,台風の全体的な回転によって見にくくなっていた,より微細な動きが可視化される。それを面的に抽出するため,今回は目視による雲追跡を行なった。

開発した手法を2017年の台風21号(Lan)の目の中の運動に適用した。航空機観測が行なわれた可視光による観測データを用い,目の中の回転角速度の分布を30分毎に求めたところ,ドロップゾンデによる観測と整合的だった。

これにより,8時間の間に台風の中心付近の回転が約15%も速くなったことが明らかになった。これは,観測期間中に発生した複数のメソ渦(目よりも小さなスケールの渦)によって,目の周辺域のより強い回転が伝えられることで起こったことが示唆された。

今回の研究によって,目の中にメソ渦と呼ばれる小さな渦が繰り返し発生し,回転の速さが数時間で増加したことが明らかになった。これは,メソ渦による混合によって台風の構造が変化したことによると考えられる。このような過程が,観測から確認されたのは世界で初めてだという。

この研究成果は,社会に発信される台風情報(強度・構造)の改善と,進路・強度予報の向上につながるとしている。

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