東大ら,大ブラックホールの起源と質量を示す


東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)らの国際研究グループは,太陽質量50倍という大質量を持つブラックホールが,脈動型電子対生成超新星によって形成されたものであることをシミュレーションから明らかにした(ニュースリリース)。

米国の重力波望遠鏡LIGOと欧州のVirgoの重力波観測は,二つのブラックホールの合体が起きたことを明らかにした。2017年に観測された重力波イベントGW170729は,合体前の一方のブラックホールが太陽質量の約50倍であったことが分かった。

従来の予想では,合体前のブラックホールは太陽の10倍程度の質量を持つものが多いと考えられており,GW170729の衝突前のブラックホールの質量は予想よりはるかに大きい。

今回研究グループは,太陽質量の80倍から130倍の非常に質量の大きな星の進化の最終段階をシミュレーションした。このような質量の星が進化して酸素の多いコアを形成すると動的な脈動を始める。星内部の温度が高くなると光子から電子と陽電子の対が生成され,星のコアが不安定になって収縮が加速する。

急激な収縮により酸素の爆発的燃焼が起こり,そのエネルギーにより収縮していたコアの跳ね返りと膨張が起きる。その結果,星の外層の一部が吹き飛ばされ,一方で内側は冷えて再び収縮する。そして,酸素が燃やされてなくなるまで脈動(膨張と収縮)が繰り返される。

この過程は「電子対生成脈動」と呼ばれている。星はこの過程を経て鉄のコアを形成し,最終的にブラックホールへと崩壊する。そしてそれが引き金となって,爆発が引き起こされる。この爆発を脈動型電子対生成超新星という。

研究グループは,このような脈動型電子対生成超新星に至る進化を計算し,脈動が起きている間に起きる大量の質量放出のシミュレーションを行ない,重力波イベントGW170729 を引き起こした約50太陽質量のブラックホールは,脈動型電子対生成超新星の残骸として形成されたものと結論した。

そして,52太陽質量から150太陽質量の間の質量を持つブラックホールは形成されず,重力波で観測されるブラックホールの質量の最大値は,実際上52太陽質量になると結論した。

研究グループは更に,星の脈動によって大量の星周物質が形成されることを予測した。この星周物質と脈動型電子対生成超新星の爆発で生じた物質が衝突することで超高輝度超新星となる可能性も示した。

将来の重力波観測によって,脈動型電子対生成超新星となる星の進化や超高輝度超新星のメカニズムに関する理論的予言が裏付けられるかもしれないとしている。

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