横市大ら,香辛料から蛍光量子ドットを高効率合成

横浜市立大学,日産アーク,東洋大学は共同で,マイクロ波プラズマを利用した天然物からの蛍光性炭素量子ドット(CQDs)の高効率合成に成功した(ニュースリリース)。

量子ドットとして現在,CdSe,InP,ZnS,PbSなどが知られているが,高額な原料コストや煩雑な製造プロセスに加え,Cd,Se,Pbなどの有害元素の環境や人体への影響も懸念されている。

そこで安価で安全な炭素量子ドット(CQDs)が注目を集めている。これまでのCQDsの製法は,ボトムアップ的手法とトップダウン的手法の2種類に大別される。最近では天然物からのCQDsの作製も行なわれているが,いずれの手法も合成プロセスの煩雑さや生成されたCQDsの不安定性や再現性が課題となっていた。

昨年同グループは植物の種を炭素源として,加熱分解といった簡便な手法による安定なCQDsの合成に成功している。

今回,新たにマイクロ波プラズマを用いて,より効率的な植物の種からのCQDsの合成に成功した。具体的には,市販の香辛料の一種であるフェヌグリーク種の粉末を加熱することなく水素を用いたマイクロ波プラズマに数分間晒すだけで,CQDsが効率的に作製される。

そのメカニズムは明らかではないが,プラズマのエネルギーが直接的に粉末原料に伝わり,高効率でボトムアップ的にCQDsが形成されると考えられるという。得られたCQDsは,平均直径4nmの均一なサイズと高い結晶性を示す。水溶液中で紫外線照射下において波長414nmの強い青色発光を示し,その耐褪色性も優れている。

さらに水溶液中で1年以上にわたって高分散性と強い発光特性が維持され,極めて安定性の高いCQDsが得られていることがわかった。また,発光の波長が励起波長に強く依存し,励起波長260~320nmでは波長の増加に伴って発光波長が減少(ブルーシフト)し,340~380nmでは励起波長の増加に伴って発光波長が増加(レッドシフト)するデュアルモードが現れる。つまり選択的なドーパントの導入も可能で,蛍光特性の制御にも繋がることが期待される。

CQDsとタンパク質リゾチームの混合溶液から蛍光タンパク質の結晶化を行なったところ,典型的なリゾチーム結晶の外形を保持した状態で蛍光結晶が得られた。このような蛍光タンパク質結晶の作製は新たな蛍光材料の創製やバイオ応用へも発展することが期待される。

研究グループは今後,水素だけでなく,窒素や酸素などを用いたプラズマを利用することにより,CQDsの高性能化や蛍光特性の制御の実現を目指す。また,LEDやバイオ応用への展開も進めるとしている。

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