理研ら,高効率有機EL開発に有用な計算法を開発

理化学研究所,北海道大学の共同研究グループは,有機ELディスプレーなどに用いられる有機半導体の発光効率に関わる逆項間交差の速度定数をコンピューターによる量子化学計算で予測する方法を開発した(ニュースリリース)。

有機ELデバイスの材料となる有機半導体材料開発のさらなる加速に向け,理論計算化学が先導する新材料の発見に期待が高まっている。次世代の有機EL材料として注目されている熱活性化遅延蛍光(TADF)材料は,通常は発光できない三重項励起状態から発光可能な一重項励起状態への遷移である逆項間交差により,デバイスの発光効率を高めることができる。

しかし,この逆項間交差が遅い場合,デバイスの劣化や高輝度時の発光効率の低下につながるため,より速い逆項間交差を示すTADF材料の開発が,実用化に向けた課題の1つとなっている。

従来,逆項間交差の理論計算は,材料の電子状態を単純な調和振動子として仮定するマーカス理論に基づいており,既存材料の実験値を再現することが困難だった。そのため,新材料の理論設計に向けて,逆項間交差の速度定数を高精度で予測する方法が求められていた。

逆項間交差は,一重項励起状態と三重項励起状態のポテンシャルエネルギー面が交わる「交差シーム」を通じて効率的に進行すると考えられている。従来は交差シームを調和振動子の近似に基づいて見積もり,逆項間交差の速度定数を評価していた。

研究グループは,量子化学計算により交差シームにおける分子構造を求め,逆項間交差の速度定数を精度良く評価する方法を開発した。これを20種類の既存TADF材料に適用したところ,102毎秒(s-1)から107毎秒までに及ぶ逆項間交差速度定数の実験値を非常に良く再現できることが示された。

また,20種類全ての材料において,逆項間交差は,最低エネルギー一重項励起状態(S1)と最低エネルギー三重項励起状態(T1)間でなく,S1と高次三重項励起状態(Tn)間の交差シームを通じて効率的に進行することを理論的に導き出し,逆項間交差がTnを介して起こることを示した。

さらに,開発した予測法を用いてTADF材料の新たな分子構造を設計し実際に合成したところ,非常に高い逆項間交差速度定数2.6×107毎秒を示した。

開発した方法は,さまざまなTADF材料の逆項間交差速度定数を精度良く予測できる。今後,この手法と機械学習を組み合わせたマテリアルズ・インフォマティクス研究により,有機EL材料の効率的な仮想スクリーニングやデバイス性能の飛躍的な向上につながる学理の確立が期待できるとしている。

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