NTTら,MEMSでカオス信号生成に成功

日本電信電話(NTT)と東京工業大学は共同で,従来手法よりも簡便で汎用性の高いカオス信号の生成手法を提案し,微細なメカニカル振動子を用いて動作実証することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

昨今,機械学習や秘匿通信などの情報処理技術の分野において,カオス信号の活用が研究されている。携帯端末や医療応用においてその活用が盛んに進められているMEMSにおいても,制御性に優れ,集積化に適したカオス発生素子の研究が進められてきた。

今回研究グループは,二つの異なる周波数の交流電圧を同時に加え,その周波数差を振動子の「秤動」運動に共鳴させる新しい手法により,カオス的な振る舞いを示す複雑な信号の発生に成功し,得られた信号が実際にカオスの特徴を持つことを数値解析により確認した。素子に加えた電圧は1~3ボルトと従来に比較して一桁程度小さな値であり,また両持ち梁という極めてシンプルな構造により,カオス信号の発生に成功した。

カオスの発生には,一般に振動子の「非線形性」が必要であることが知られている。振動子を作製する材料として,圧電効果を有する半導体であるGaAsとAlGaAsの単結晶ヘテロ構造を用いることにより,数ボルトの電圧で安定した動作が可能となるメカニカル振動子を実現した。

一般に,月や地球などの天体は,自転と公転などの単純な周期運動に加え,数年から数万年といった長い年月にわたった長周期運動を行なっている。このような運動は「秤動」と呼ばれ,潮の満ち引きや他の惑星の引力など,様々な要因により引き起こされる。メカニカル振動子においても,振動子の非線形性により同様の長い周期の振動変化を伴う。

今回,二つの周波数の交流信号を加えることにより大きな「秤動」振動を引き起こし,「秤動」におけるカオスを生成させることに成功した。二つの周波数の交流電圧を同時に加えると,そのちょうど差周波にあたる「うなり」が発生するが,このうなりの周波数を「秤動」運動に共鳴させることにより,大きな「秤動」を生み出す手法を用いた。

この振動子の振動数は,まだ数メガヘルツという低い周波数であり実用には不十分。より高周波のメカニカル振動子によるカオス発生の実現をめす。また,実際にリザバー計算などの手法に適用し,カオス振動の有用性を実証するとしている。

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