ユニソクの低温分光ナノ構造顕微鏡が中小企業優秀新技術・新製品賞を受賞─科学技術の進歩へ貢献に期待

超高真空・低温SPM部分は,ユニソクのUSM1400をベースに,ラマン散乱測定用にSPM測定部位を大幅に改良したスキャンヘッドを開発した。USM1400は,もともと超高真空・低温SPM装置を他の装置と組み合わせやすくするために,冷媒タンクをSPMヘッド装置下部に持つ独自の設計を取っている。このUSM1400のSPMヘッド部分の設計を見直し,SPMのスキャン機構をサンプル側に集中することで光学アクセスを大きく取れるように改良した。また,サンプルスキャンタイプのヘッドは,SPM走査中に針と励起光の位置が変化せず,光路ずれによるシグナル変化を起こさないという特徴もある。探針のフィードバックにはトンネル電流を用いる走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunnel Microscopy ; STM)を用いている。

SPMヘッド近傍のコールドステージ上には,超高真空・低温条件下でもXYZ軸方向に稼働するレンズステージが二つ設置されている。このことで,高いラマンシグナルの回収効率を保持しつつ,探針先端に正確に光路調整を行うことを可能としている。レーザーはサンプル表面に対して斜め方向から照射される。反射方式で設置された二つのレンズステージのうち,一方のレンズステージはラマン散乱信号測定用であり,もう一方のレンズはレーザーの照射位置を観察するために用いられる。

図2 超高真空・低温TERS装置の外観と,低温観測室内部の模式図。
図2 超高真空・低温TERS装置の外観と,低温観測室内部の模式図。

ラマン分光ユニットには,東京インスツルメンツ社のNanofinder flexを用いている。Nanofinder flexはコンパクトかつ高いラマンシグナル回収効率を持つラマン顕微鏡装置であり,真空チャンバーへの接続が比較的容易である。これによって,高感度にラマン散乱を検出することが可能となった(図2)。

図3 超高真空・低温TERS装置で測定した,単層カーボンナノチューブのD-bandマッピング結果とシグナルの断面図。
図3 超高真空・低温TERS装置で測定した,単層カーボンナノチューブのD-bandマッピング結果とシグナルの断面図。

装置評価のため,標準サンプルとして銀上に分散させたカーボンナノチューブの測定を行った結果,D-bandのマッピングによってカーボンナノチューブの構造欠陥をイメージで捉えることが出来た。空間分解能は3 nm以下であり,半導体やナノマテリアル,単分子の測定への応用が期待される(図3)。◇

(月刊OPTRONICS 2017年5月号掲載)