半導体レーザーの基礎と実際

【本連載執を筆者された黒澤宏氏は2019年4月15日に逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。】

 

一昔前までは,レーザーと言えば,ガスレーザーか固体レーザーを指していたのですが,今では半導体レーザーが代表格にまでのし上がる勢いです。

このような半導体レーザーの基礎と実際について詳しく見てみることにしましょう。半導体レーザーは固体からできたレーザーですが,エネルギー構造とポンピングの両方に関して,普通の固体レーザーとはかなり違ったレーザーです。1回では語り尽くせないほど沢山ありますので,数回に分けてお話しします。

今まで見てきたレーザーでは,孤立した原子のエネルキー準位を利用してきました。固体の中に入れても,孤立原子の良いところを失わないよう,原子の濃度を低くして原子同士の相互作用がないように工夫してきました。

ところが,半導体では,もはや孤立原子のようなエネルギー準位を持つことはありません。半導体の中の電子は広いバンド(帯)状のエネルギー準位を取ります。各々のバンドは非常に多くの,密に詰め込まれたエネルギー準位からできています。これらの準位は,個々の原子と結びつけて考えることはできません。結晶全体の性質です。

半導体レーザーの基本はエネルギーバンド(帯)です。そこでまず,半導体におけるエネルギーバンドについてお話しします。


図1
図1

例として,シリコン(Si)を取り上げます。図1(a)に描いてありますように,Siは14個の電子をもっており,エネルギー値の低い方から,エネルギー準位1sに2個,2sに2個,2pに6個,3sに2個,そして3pに2個が詰まっています。3pは,6個の電子まで入ることができるので,空席が4個あることになります。

このようなSi原子が2個あり,互いに近づくと,原子・電子同士が影響を及ぼしあい,図1(b)のように,それぞれの準位が2つに分裂します。原子の数が増えて行き,多くの原子が規則正しく整列したものを結晶と呼びますが,その中の電子の準位は原子の個数と同じ数に分裂します。

1 cm3の結晶の中には,約1022個と極めて多数の原子が存在しますので,分裂した電子準位は,図1(c)では線で描いてありますが,実際には塗りつぶされることになります。この塗りつぶされた準位が,バンド(帯)状になっていることから,エネルギーバンド(エネルギー帯)と呼ばれています。

1sエネルギーバンドには,2Nこのエネルギー準位があり,そこに2N個の電子が存在していますので,満杯です。2s,2pエネルギーバンドも満杯です。一番上の3sと3p状態は,お互いに影響し合って,3s+3p混成バンドを作り,その混成バンドが2つのバンドに分離する現象が起こります。分離した2つのバンドには,各々4N個の準位が存在します。3s+3p混成バンドには4N個の電子が存在しますので,分離したバンドのエネルギー値の低い方に集ります。


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