波長可変固体レーザー

図4
図4

図4には,3つの異なる周波数の波を重ね合わせた計算結果が描いてあります。中央付近は,3つの波が強めあった結果,振幅の大きな波になっていますが,それ以外の箇所では,弱めあうために,振幅がほとんどゼロになっています。

このように周波数の異なる波を重ね合わせることによって,短時間しか振動しないパルス波が得られます。重ね合わせる波が多いほど,言い換えれば広い範囲で異なる周波数を持つ波を重ね合わせることによって,急峻な鋭いパルス波が得られます。

このような極めて短時間だけ発光するものを超短パルスと言います。これは,時間幅の非常に短い(10兆分の1秒程度:10 fs(フェムト秒)=10–14s)光波です。図4で見たように,超短パルスは,多くの周波数(色)の光が位相をそろえて重ね合わされることで形成されます。

以前に縦モードのお話をしました。反射鏡の間隔を共振器長と言いますが,この長さをLとすると,縦モードの間隔はc/2L(c:光速)で与えられます。例えば,50 cmの共振器長とすると,この間隔は3×108Hzになります。Ti:Al2O3レーザーの発振波長を周波数に換算すると,中心波長の800 nmは375×1012Hz=375 THz(テラヘルツ)と計算できます。


図5
図5

このレーザーの発振波長範囲は660 nm~1180 nmあるのですが,図5のようにピークの高さが半分程度になる周波数範囲としてΔf=60 THzを取りましょう。この周波数範囲の中に,実に2×105本の縦モードが含まれているのです。すなわち,これだけ多くの周波数が異なる波を合成した時に得られるパルスの時間幅tはいくらになるのでしょうか。

発振周波数範囲Δfとパルス時間幅tとの聞には,不確定性原理からt=0.4/Δfの関係があります。係数はパルスの形によって変わりますが,概ねこの程度の値です。この式に当てはめてみると,Ti:Al2O3レーザーから得られるパルスの時間幅はt=5×10–15 s=5 fsとなります。実際に超短パルスを発生させる方法はいくつかあるのですが,基本的には縦モードに位相を揃えて発振させるモード同期を使います。図5に描いてあるように,共振器の中にスィッチを入れて,縦モードの位相を揃えることによって,理想的には5 fs程度のパルスが得られます。


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