車載センサにおける赤外線レーザセンサの立ち位置とは

自動車の自動運転技術がにわかに注目を浴びるようになり,その際に自動車の「眼」となる各種センサはその方式の特長によって使い分けがなされている。現在は検出対象の距離や位置によってミリ波レーダ,可視光カメラ,赤外線レーザセンサを装備するのが一般的だ。

例えばマツダは「i-ACTIVESENSE」という安全補助装置を新型「アテンザ」にオプションとして搭載するが,遠距離の観測はミリ波レーダ,中距離は可視光カメラ,近距離は赤外線レーザセンサと,距離に応じてそれぞれの役目を課している。これはデンソーが提案する予防安全システムパッケージもほぼ同じ内容だ。 しかし,多数のセンサを搭載することは合理的とは言えず,できるだけ少数のセンサに機能を集約したいのが自動車メーカの本音であろう。

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マツダの「i-ACTIVESENSE」
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デンソーの予防安全システムパッケージ

現在のところ,1種類のセンサで複数の機能を実現している技術にはスバルの「アイサイト」がある。これは2台の可視光カメラで前方を捉えるもので,画像解析により障害物を捉えて衝突を防ぐだけでなく,前方車を自動的に追従して走行したり,車線の逸脱の検知,アクセルの踏み間違いによる急発進の防止などの機能を実現している。

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センサが多いと車のデザインにも支障が出る

さらに,可視光カメラは価格も安いというメリットもあるが,その一方で,夜間の検出は苦手なほか,天候にも左右されやすく,またトンネルの出入り口のような照度の急激な変化や,朝日や西日の直射も苦手といった弱点がある。

これに対し,ミリ波レーダーは天候や明るさに左右されないという長所があるが,解像度が他のセンサと比べて低く,高さの検出が苦手なこと,人のように小さな対象物の検出には高出力/高周波数が必要になるといった弱点があり,近接する障害物の検出には向いていない。また価格が高いことも普及の足かせとなっている。

一方,赤外線レーザセンサは,最近になって4~5万円で軽自動車にもオプション設定されるなど,価格面で急激にその存在感を表している。前方数mを検出することで,低速時ならば自動ブレーキで追突を避け,それ以上の速度でもブレーキをアシストすることで,衝突時の被害を軽減するほか,アクセルの踏み間違いにも対応する。

これまでは近距離の検知に用いられていた赤外線レーザセンサだが,中~遠距離にも応用使用しようとする動きがある。自動車部品メーカのフランスValeoは,ドイツのスキャナメーカibeoと協力して,遠距離にも対応する赤外線レーザセンサを開発している。発表した製品は950nmの赤外レーザを用い,距離150m,角度150°の検出が可能だとする。出力は非公表だが,もちろんアイセーフだという。ミリ波では捉えられない高さ情報も検出するので,人や近接する障害物の検出も可能だとしている。

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Valeoの赤外線レーザセンサ

レーダにしろレーザにしろ,標識の検出はできないので,しばらくは可視光カメラとの併用が現実的な選択となる。しかし,コストや合理性を考えると,どちらかは淘汰される可能性が高い。こうした可能性については「一つで済むならばそちらを使いたいが,まずはコストが最大の課題」(自動車メーカ担当者)と言うように,性能はもちろん,価格がそのカギとなる。

こうした安全装置の有無を,ABSのように自動車保険の掛け金に反映しようとする動きもあるようだ。スタンダードとなる方式はどれなのか。自動運転技術実現のキーともなるセンサの動向が注目される。

2017/6/5 記事内にLiDARは「白線の検知ができない」とありましたが,反射率の差から検出可能です。当該箇所を削除しました。