NTT,通信用半導体レーザをガスセンシングに応用

NTTは測定機器メーカと共同で,通信用半導体レーザのノウハウを検出器の光源に応用し,分子の安定同位体濃度を検出する技術を開発している。

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レーザは米PICARRO社製水同位体比アナライザに採用済

これは,同位体元素を含むガスにレーザ光を入れると,同じ分子であっても,同位体によって吸収波長が異なることを利用し,出てきた光のスペクトルを調べることで,ガスに含まれる安定同位体元素の比率を計測するというもの。

例えば同じ水の分子H2Oであっても,構成する酸素(O)の同位体には16O,17O,18Oがある。また水素(H)にも1Hと2Hが存在する。数字が大きい同位体のほうが僅かに重いので,海面から蒸発した水分は雲になった後,先に雨となって地表に落ちる。

これを利用し,農作物に含まれる水分の同位体の存在比率を調べることで,海からの距離や標高,即ち農作物が生産された大まかな地域を相対的に知ることができる。さらに地域固有のデータと照らし合わせれば,産地のトレーサビリティが可能になるという。

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レモンの産地による同位体の濃度分布

光源には中心波長1.3〜2μm,出力10〜20mWの波長可変レーザを使用。検出器はミラーを対向に配置した共振器構造とすることで,数キロメートル以上の光路長を稼いでいる。ここに試料のガスを入れ,その中を往復させたレーザ光のスペクトルを測定する。

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センサ用波長可変レーザ

調べたい同位体によって吸収が高い波長や最適な出力が異なるので,上記の場合のように水を調べたい場合は,水に吸収のある1.4μm帯のレーザを使う。ちなみにこの波長は,光ファイバ中の水分に吸収され減衰の原因となるため,通信用には一般的には用いられない。

従来,同位体の測定装置には同位体比質量分析法や核磁気共鳴分光法といった,操作が複雑で装置も大型な方法が用いられてきた。レーザを用いたこのシステムは小型なので可搬性に優れるほか,高速・高感度・高分解能といった多くの特長を持つ。

同位体比分析は,物質の起源に関する情報を判別・推定する技術であり,水の他にも炭素(C)の同位体の比率を調べることで,温室効果ガスの発生起源(化石燃料・バイオマス燃料・呼吸など)を明らかにすることも可能なので,排出量取引などのサービスにも役立つのではないかとNTTは期待を見せている。同社は今後,国内外メーカとの協業により,高性能レーザガスセンシング装置を実現し,食品などの産地判別サービスの実現に活用していく。