風速・風向計測にレーザー光!風力発電市場拡大で注目されるドップラーライダー

世界的に風力発電システムの設置基数が増加している。富士経済によれば,その世界市場は2020年に9兆7,200億円になると予測しており,特に洋上風力発電システムの設置比率が高まるものと見られている。一方,2020年の日本市場は2,160億円と予測されており,洋上風力発電システム市場はそのうちの約3分の1を占めると予測されている(図1)。

2020年以降は,洋上風力発電システム市場の伸長が期待されているが,欧米に比べて,日本の発電コストは高く,風車価格や工事費用の高止まりが指摘されている。日本市場では低コスト化が求められているが,維持管理費を含めてその実現に向けた研究開発は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業によって進められている。

図1 風力発電市場システムの世界市場(上),同国内市場(下)。<br> ※出典:富士経済『World Wide陸上/洋上風力発電市場の現状と将来展望2017』
図1 風力発電市場システムの世界市場
(上),同国内市場(下)。
※出典:富士経済『World Wide陸上/洋上風力発電市場の現状と将来展望2017』

日本における洋上風力発電システムの普及拡大に向けては,追い風もある。これまで海域の設置が制限されていた再生可能エネルギー発電設備に対し,その利用の促進に関する法律案がこの3月に閣議決定された。これにより,再生可能エネルギー発電事業の長期的な占用が可能になる。

課題は設置にかかるコストだが,建設前には風向・風速計測が不可欠で,メットマストと呼ぶ風況観測のための鉄塔の建設と複数の風況観測設備が必要となるが,この建設にかかる費用が膨大となる。

この低コスト化に期待されているのが,レーザー光を用いたドップラーライダーだ。このライダーでは,地上から,あるいは建設予定地の洋上からメットマストなどを建設することなく,レーザー光を上空に出射し,大気中に浮遊するエアロゾル粒子からの反射光を検出することで風向・風速を計測する。

現在,このドップラーライダーシステムを製品化している主なメーカーは,三菱電機とフランス Leosphere(国内販売代理店:英弘精機)で,両社はNEDOの洋上風力プロジェクトや建設業界との観測実証において納入実績を持つ。

このうち,三菱電機の風況観測ライダーの開発は2000年に遡り,全光ファイバー型ドップラーライダーを試作し,2014年に製品化を発表。その後,より小型のライダーを開発するとともに,長距離観測ライダーも製品化している。

写真1 三菱電機の小型ライダー
写真1 三菱電機の小型ライダー

小型ライダーは観測距離が高度40 m〜250 mのもので,ビーム走査パターンはスイッチ切り替え方式となっており,走査方向は5方向となっている。また,高度分解能は20 m/25 m/30 mより選択できる仕様になっている(写真1)。

同社はさらにライダーシステムの小型化に向け,ナセル搭載型の開発も進めている。これは風車に直接設置できることから,風車方位やブレードを制御することによって発電効率の改善につながると期待されている。この実証実験は,産業技術総合研究所が行なっている。

長距離観測用ライダーは最大20 kmまで計測可能で,高度分解能は30 m/75 m/150 mから選択可能。この長距離観測用は空港などに設置実績があるという。

一方で,この方式を応用した航空機向け乱気流計測ライダーの開発も進んでいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が行なっているもので,ボーイング社と共同で飛行試験も開始しているという。このライダーの実用化は三菱電機が担当することになるとしている(詳しくはP95のインタビューを参照)。

写真2 Leosphere社製小型ライダー(上)と長距離風況観測用ライダー(下)
写真2 Leosphere社製小型ライダー(上)と長距離風況観測用ライダー(下)

英弘精機が国内販売代理を務めている,Leosphereが製品化しているのは観測距離が40〜200 m,高度分解能が20 mの小型ライダーと,観測距離が最大10 km(機種によって異なる)の仕様のもので,高度分解能が25 m/50 m/75 m/100 m/150 m/200 mの長距離観測用ライダーで,ナセル搭載型もリリースしている。このうち,長距離観測用ライダーは観測ヘッド部が360度回転するもので,3Dスキャニングを可能にする(写真2)。

Leospherは2004年に設立した企業で,英弘精機によると,風況観測用ライダーをこれまで世界市場において累計で1,000台を販売しているという。日本市場ではそのうち60台の販売実績があるとしている。また,英弘精機では,独自に温度・湿度も計測可能なライダーの研究開発も進めているという。

三菱電機とLeosphereの両社のライダーで共通するのは,1.5μm帯のアイセーフレーザーを使用している点だ。また,これらのライダーは晴天時で風況観測ができるのが強みとなっている。

ライダーの開発を巡っては,自動車などモビリティ分野向けが注目されているが,気象観測などの分野においてもその技術の進展や市場拡大に対する期待は大きい。いずれにしても今後のリモートセンシング技術の実用展開が注目されている。◇

(月刊OPTRONICS 2018年5月号掲載)