パナソニック,五輪に向け技術開発を公開


パナソニック 五輪担当 井戸正弘氏

 

パナソニックは2月4日,関係者向け内覧会「Wonder Japan Solutions」(2月5日,6日)をパナソニックセンター東京で開催したのに先駆け,プレス向けに発表会を行なった。この展示会は,2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて東京が抱える問題点に対し,同社技術によるソリューションを提案するというもの。

展示テーマは「ネクスト3」。バリアフリーを目指した「アクセシビリティ」,スポーツの映像演出や競技力の強化を狙う「スポーツ」,個人向け健康増進を市場とする「ウェルネス」の3つをソリューションの柱とする。これに昨年のテーマ「インバウンドへのおもてなしからの進化」を加え,71の商材を14のコーナーで展示した。

ここではその中から,光技術に関するものを紹介する。


芝生育成装置

左右の突起にはフィルターが入っている

育成実験の結果

サッカースタジアムでは芝の管理が重要となる。激しいプレーに晒される芝は損傷を受けることが多く,太陽光を当ててその回復を促す必要がある。しかし,最近のスタジアムの多くには観客席部分に屋根が付いており,十分に太陽光が当たらないことも多いという。

そこでパナソニックは,台車にLED照明などを取り付けた装置を開発した。夜間に痛んだ芝の上にこの装置を置き,LED光を照射することで不足する太陽光を補い,その育成を促そうというもの。いわば移動式植物工場だ。

通常の植物工場では,植物の育成に重要とされる波長である赤と青のLEDを使用することが多いが,ここでは白色の直管型LEDを使用した。その理由について「専用のLEDを用いるより,汎用の直管型LEDの方が今後値下がりが見込める上,性能的にも向上が著しい」(担当員)ことを挙げた。試作機は850Wの消費電力で,太陽光の1/2の光合成光量子束密度(PPFD)を実現した。

この試作機は送風機能も備えている。芝の葉の表面は光合成時に薄いCO2の膜ができ,これがそのまま付着していると葉の成長を妨げる原因になるためだ。野外のグラウンドならば自然の風がこの膜を飛ばすが,壁に囲まれたサッカースタジアムは風通しが悪いため,この機能が必要だったという。

さらに同社は監視カメラの技術を応用し,芝を撮影して状況をデータ化し,分析する技術も開発している。これは可視から近赤外域において特定の波長のデータを得ることで,芝の健康状態をチェックするというもの。芝が剥げて砂地がむき出しになっている状態も知ることができる。現在は評価中だというが,実用化すれば自動化した芝の育成装置と連携して,無人で芝を管理することができるようにしたいとしている。

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車窓スクリーン

超短焦点プロジェクター

移動をより便利で楽しいものにするために開発したのは,列車の車窓にプロジェクターで情報を投映するアイデアだ。これは同社の超短焦点プロジェクターを用いたもので,車窓型のスクリーンに天井に設置された2台のプロジェクターから情報が投映されている。

実現するにあたっては,2通りの方法を考えているという。一つは窓に透過型のスクリーンを取り付けて実際の風景に情報を重畳するというもので,もう一つは窓の代わりに最初からスクリーンを設け,外の風景はカメラなどから取り込むというもの。

デモでは2500 lmの装置が使用されていたが,実際にはさらに高い輝度でも外光に負けて投映した像が見えにくくなることから,後者の方法を有力視している。乗客がわざわざプロジェクターで車窓の風景を見たいであろうかという疑問に対しては「2027年に開業予定の中央リニア新幹線は,ほとんどがトンネルになる。こうしたシチュエーションでこの技術のニーズはある」としている。

同社では,この技術をさらにブラッシュアップするため,さらに小型のプロジェクターを開発している。開発中の試作品は35cmの距離から75インチの投映ができるもので,大きさは現行品の1/4となる261×76×246(mm),レーザーを光源とし解像度1280×800で明るさは1000 lmとなっている。今後は実現に向け,各指標をさらに高めていく。


透過(透明)状態

磨りガラス状態

映像を投映

プロジェクターを用いた技術では,透明⇔磨りガラス状態を可逆的に変化させることができるガラスを用いた宿泊施設のウェルカムサインも見ることができた。これは電圧を印可すると状態が変化するガラスによるもので,磨りガラス状態にすることで裏からプロジェクターを投映してスクリーンとして使うことができる。ガラスの動作原理については開発中につき非公開だったが,切替えが一瞬で行なえるのが印象的な技術となっている。


55型8Kタッチパネル

提灯を利用した光ID

8Kパネルも実用化を進めていく。今回,昨年のNHK技研公開で公開した55型の8Kパネルにタッチパネルを装着したものを披露した。一度に10点までのタッチを認識することができるので,数人でこのパネルを囲み,同時に情報を表示することができる。8Kの高精細さを活かし,ここでは詳細な地図の上に観光情報のスクリーンを重畳するデモを行なった。

また,LED照明を用いた光IDも積極的に観光客向けに活用したい考えだ。同社の光ID技術は,スマートフォンのカメラを光IDを発するLED照明に向けるだけで,URLなどのタグを取得できる技術。これまでも同様の技術が各社から提案されているが,同社の技術はカメラの制御により高速でタグの取得が可能となっている。

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手前のチョコを見たとき

奥のチョコを見たとき

赤外線LED照明とカメラを用いて観察者の眼球の動きを検出する「視線検出技術」を用いたデモは,デジタルサイネージと組み合わせて行なわれた。視線検出技術は,自動車のドライバーのわき見や居眠りを警告するシステムとして実用化もされているが,同社はこの技術をデジタルサイネージに搭載し,観察者の視線の動きを追って,見ている位置にピントがあ合った映像を表示するシステムを構築した。

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炎検知センサー

ウェアラブルディスプレイ

独自の超薄スクリーン

セキュリティ関連では,独自の炎検知センサーを展示した。火災センサーには熱検知センサーや煙検知センサーがあるが,これらはある程度火が大きくならないと動作しない。これに対し同社の炎検知センサーは,炎から放射される光に含まれるUV-Cを検出するので,火の手が上がると同時に警報を鳴らすことができる。また,水素のように無色の炎でも動作するので,同社では今後普及が予想される水素ステーションなどでの使用を提案している。

他社からも同様のセンサーは発売されており,同社のセンサーも「使っているセンサーの素子は他社製」(説明員)だという。しかし,同社のセンサーは炎のUV-Cにのみ反応し,太陽光のUV-Cには反応しないとう特長がある。そのため屋外や窓のある部屋など,太陽光が入射する場所でも使うことができる。その技術については「完全にブラックボックス化している」(説明員)とのことだ。

今年に入って大手メーカーからヘッドマウントディスプレイ(HMD)の発表が相次いだが,この展示会では同社もHMDの試作品を展示した。表示には社外製のLCOSを用いており,1280×720の映像をシースルーで表示する。警備員が装着することをイメージし,騒音下でも音を明瞭に聞くことができる骨伝導スピーカーとカメラも共にヘッドセットに装着している。

このHMDの特長として,同社が培った光ディスクなどでの技術を応用し,薄膜を蒸着したシースルーのミラーをスクリーンとして開発したことが挙げられる。スクリーンを1枚のミラーだけというシンプルな光学系にしたことで,ディスプレイユニットの軽量化を実現した。

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家庭向け8Kソリューション

8Kケーブルのカットモデル

信号光が伝送されているのが見える

2020年の8K放送開始に向けたコーナーでは,家庭と放送局両方に向けた開発状況が展示された。家庭向けでは8Kディスプレイとレコーダーなどの機器との接続に用いる,HDMIに代わるプラスチック光ファイバー(POF)を用いた大容量ケーブルのデモが展示された。

これはKAIフォトニクス(慶應義塾大学発ベンチャー)と共同で,「プラスチック光ファイバー/ボールペン型接続技術」を採用したコネクタ付ケーブルを開発し,さらに同社の広帯域信号の多値化伝送技術を適用することにより,1本のケーブルで100Gb/sを超える伝送速度を達成したもの。

ケーブルには4本のPOFが入っており,これまでコネクターでの接続で困難だったPOF同士の精密な突き合わせを,ボールペンの製造技術を応用して実現している。このケーブルで100m程度の伝送が可能だとしている。

8Kディスプレイは,今年のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)でも展示したRGBレーザーをバックライトに用いたもの。8Kの色域の指標であるBT.2020の約98%をカバーしたとしている。表示方法等,具体的な技術については非公開だった。BT.2020を満足するのはレーザーディスプレイだけとされており,同じくRGBレーザーを用いたディスプレイを三菱電機がNHKと開発している。

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放送向け8Kソリューション

業務用カメラなど放送業界にも実績のある同社だが,8Kカメラについてはこれまで開発しておらず,今回試作機を初めて公開した。試作機は8K単板カメラでPLマウントとなっており,受光素子にはNHKと8Kカメラの開発を進める池上通信機や日立国際電気のカメラと同じものを使っているという。

単板としたのは,画像処理によって3板に近い画質を得られるようになってきたことと,カメラの大きさや消費電力での優位性があるため。また,PLマウントとしたのは2/3マウントでは十分な画質が得られらないためだとしている。ただし,現行のHDレンズ遺産の利用や被写体深度の面で8KカメラがすべてPLマウントとなるか不透明な部分もあり,この点については業界全体で考えていく必要があるとしている。

8Kレコーダーは実用化したものを展示した。記録媒体にExpressCardを用い,8基のスロットを設けている。詳細な仕様は得られなかったが,1~2時間程度の8K映像が録画できるものと思われる(スロットのカードを交換しながら撮影すればより長時間の録画が可能)。このレコーダーはリオデジャネイロオリンピック/パラリンピックでNHKが使用する予定だという。


4K 360度カメラ

バーチャルカラーフィッティング

WHILL NEXT

同社は2020年に向けイノベーションも加速していく姿勢を表明している。4K 360度カメラは4台のカメラを組み合わせたもので,各カメラの映像を合成して360度のパノラマ映像を撮影し,これをリアルタイムでスマートフォンなどに配信する。視聴者は画面の画角を自由自在に操作することができる。このとき用いるエンコードやデコード,サーバーなどの技術で富士通と協力をしている。

バーチャルカラーフィッティングは,衣類を一度試着すれば,着替えなくても別のカラーバリエーションを確認できるシステム。カメラで撮影した映像のカラーを変換してリアルタイムでディスプレイに表示するものだが,光の当たり具合や素材の質感なども違和感なく再現することができる。また上着とインナーで別々の色を選ぶこともできるので,重ね着の組合せも確認できる。これはアシックスと開発するもので,特に着替えが面倒なインナーの販売で期待されているという。

次世代電動車いすで脚光を浴びるWHILLとは,センサーで協力した。LiDARセンサーを2機取付けており,障害物にぶつかる前に回避するなどの機能を追加した。この車いすで障碍者のアクセシビリティを向上する。

歌舞伎役者の市川染五郎氏もゲストで登場

同社の広範な技術分野から多数の展示があったが,ここでは光技術に関連する技術を取り上げた。上述したようにリオデジャネイロオリンピック/パラリンピックを「プレ東京五輪」として,同社は映像面などで積極的に関わっていく。同社五輪担当の井戸正弘氏によれば,開会式には同社の12000 lmのプロジェクター100台以上が持ち込まれ,その演出に花を添える予定だという。

同氏は前回の東京五輪になぞらえ「我々は新幹線を作ることはできないが,このオリンピックが無かったらこの技術は無かったと言われるようなソリューションを生み出したい」とその意気込みを語った。それが一体どのような製品となり世に出るのか,残り4年の進化を注目していきたい。

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