次世代自動車を担うレーザーヘッドランプとLiDARの開発状況

■LiDARの問題点と新たな動き
屋根のLiDARが特徴的なGoogle car(出典:YouTube1))
屋根のLiDARが特徴的なGoogle car(出典:YouTube1)

SLAMを用いた自動運転では有望視されているLiDARだが,問題も少なくない。その最たるものがレーザーヘッドランプと同じく価格だ。例えば自動運転の研究開発に用いられるLiDARの代表的なメーカーである米Velodyneの製品で,Google carにも搭載されている「HDL-64e」の価格は,1台約1,000万円とも言われている。

「HDL-64e」はレーザーを縦に64個使用し,周囲360度を64レイヤー,垂直視野26.8度で走査,120 m以内にある3次元空間にある物体との距離を測ることができる。

小型モデルの「HDL-32e」は32レイヤーで垂直視野41.3°となっているが,それでも価格は600万円以上と自動車に搭載できる価格ではない。

しかし,同社でもLiDARの自動車への搭載の機運を見てか,さらにレーザーの数を減らし,16レイヤーとした廉価モデル「VLP-16」(垂直視野角30°)を発売している。こちらは100万円を切る価格(7,999ドル)となっており,今後さらなる低価格化が期待される。

フロントグリルに収められたValeoのLiDAR
フロントグリルに収められたValeoのLiDAR

ドイツIbeo Automotive Systems GmbH(Ibeo)は,水平方向に145度の視野を持つLiDAR「ScaLa」を開発している。検知範囲150 mの4レイヤーを持ち,垂直視野は3.4度。Ibeoはこの製品をフランスの自動車部品メーカーのValeoにOEM供給しており,Audiはこの「Scala」を搭載したモデルを2016年に発売するとしている。

Valeoは「ScaLa」の量産により,市販車に搭載可能な価格の実現を目指している。ただし,前モデル「Lux」の価格が300万円ほどと言われていたことから,どこまで現実的な価格になるのか注目される。

ちなみにIbeoはロボットカーを開発する日本のZMPとも共同開発を行なっている。ZMPが発売する自動運転車両は2台の「Lux」をトヨタのエスティマハイブリッドに搭載しているが,その価格は2,200万円(税抜)となっている。

Quanergy SystemsのLiDAR(メカニカルスキャンタイプ)(出典:GPU Technology Conference 2014発表資料)
Quanergy SystemsのLiDAR(メカニカルスキャンタイプ)(出典:GPU Technology Conference 2014発表資料)

ベンチャーとしてLidarの価格破壊を目指すのが,米Quanergy Systemsだ。2012年にシリコンバレーで設立した同社は小型,軽量,低価格のLiDARの開発に向け3,000万ドル以上の資金調達に成功しており,メルセデスベンツ,ヒュンダイ,ルノー・日産ともパートナーシップを結んでいる。

これまでのLiDARが高価格である理由の一つに駆動部分が多いメカニカルスキャンを用いていることがあるが,同社が開発中のLiDARは半導体を用いることでメカニカルスキャンを廃し(メカレス)ながらも,8レイヤーで360度を300 mの範囲で走査することを目指している。

コストについては100ドル/個を目標にしており,実現すればそのインパクトはかなりのものになりそうだ。同社は1月のCESで発表を予定しており,その成果が待たれる。

3D Flash LIDARを用いたオムロンの試作品
3D Flash LIDARを用いたオムロンの試作品

もう一社,メカレスのLiDARを開発するのが,米Advanced Scientific Concepts(ASC)だ。同社の「3D Flash LIDAR」は広範囲に赤外光を照射し,対象物からの散乱光をデジカメのように2次元にピクセルを持つセンサーで捉える。このときの反射光の強度と飛行時間によって対象物までの距離をピクセルごとに検出し,3次元データとして空間情報を構成することができる。

この「3D Flash LIDAR」の注目度は日本でも高く,オムロンオートモーティブエレクトロニクスは,「3D Flash LIDAR」の受光素子を用いて開発したLiDARをモーターショーで参考出展(検知範囲20 m,垂直検出角30°,水平検出角140°)した。また日産も,先述の自動運転車のLiDARに「3D Flash LIDAR」を採用している。

「3D Flash LIDAR」はメカレスで小型・低消費電力という特長を持つが,一方でレーザー光を拡散させるため反射光が散乱し,メカニカルスキャンよりも検出範囲が狭くなるという欠点がある。この欠点を補うためにはレーザーの出力を上げる必要があるが,自動車に搭載するためにはアイセーフの必要があるためにおのずと限界がある。

しかし,自動車に搭載するうえで,メカレスという特長はコスト的に有利なだけではなく,長期信頼性に重きを置く日本の自動車メーカーにとっても重要なキーワードとなることから,今後の技術動向が気になるところだ。