愛媛大ら,分子結晶におけるスピン液体の起源を解明

愛媛大学,理化学研究所,大阪大学,東京理科大学,豊田理研,高輝度光科学研究センター(JASRI)による研究グループは,結晶中の分子が集団的な変形をすることで電子のもつ電荷とスピンが整然と並ぶことができない現象を見出した(ニュースリリース)。

研究グループでは,スピン液体の特性を示す分子性結晶である③金属ジチオレン錯体塩の電荷と分子の振る舞いに着目し,分子周辺の電子の密度と,分子が変形する様相を,光を使い計測した。金属ジチオレン錯体は炭素-炭素二重結合を持つ分子であり,光を当てると二個の炭素原子が特定の周波数で振動する。

この周波数は,分子一個の電子密度に鋭敏であり,また,分子同士が近寄る場合に起る電子の移動にも鋭敏に応答する。従って,分子や電子が何個集るのか,分子同士がどの程度近いのか,など電子のペア形成を調べるのに適している。

様々な周波数を数え漏らさないよう,一般的な分析機器による赤外光だけでなく,レーザー光,および,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL43IRの放射光に含まれる赤外光も用いて観測した。

測定の結果,分子は柔軟なので二個・四個・八個といった集団同士で絶えず組み替わることが分かった(格子自由度)。また,分子の電荷量が一定ではないという結果も得た(電荷自由度)。これは,分子の集団同士の組み換えに連動して,電子も複数種のペア同士で組み替わることを意味する。

結晶中の金属ジチオレン錯体分子が二個・四個・八個と集っても,電子が収容される分子軌道のエネルギーは,互いの集団間でもほとんど変化しない。これは,遷移金属と同様に,どの軌道に電子が収容されるのかという任意性(軌道自由度)が分子結晶にもあることを意味する。

つまり,スピンだけでなく軌道・格子・電荷がそれぞれ自由度(任意性)を持つので,互いの組み替えが低温でも維持できる,というのが分子結晶のスピン液体の特徴。たとえ三個の電子が正三角形からずれた位置だとしても,この組み替えによりスピン液体の性質が保持される。

また,一個一個の電子スピンが無秩序に存在するよりも,限定的でも秩序化すればエネルギーが下がるので,このスピン液体は安定して存在できる。これらは,今回の研究結果が過去の報告で指摘された,熱測定においてあたかも電子スピンが秩序化するかのような若干のエネルギー低下が観測され,磁気測定でもこれを支持するという,不思議な特性までうまく説明できることを示しているという。

この成果は,高温超伝導の解明だけでなく,電荷とスピンが独立して伝導するデバイス材料の開発,高い自由度を活用したデータ密度の高い量子コンピューターに向けた材料開発への指針を与えるものと期待されるとしている。

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